“靴が左右逆”がなおらないのはなぜ?——空間認知の発達を育てるヒント

第1章 子どもの“できない”に、心がざわつくとき
朝の支度中、玄関でふと見下ろすと――
「また左右が逆!」
思わず口にしてしまった経験、ありませんか?
お気に入りの靴を一生懸命はこうとしているわが子。
だけど、左右が逆。毎回伝えているのに、なかなか直らない…。
そんな場面に、イライラと心配が混ざり合って、思わず強く言ってしまう。
「何回言ったら分かるの?」
「ちゃんと見て履いてよ!」
「もう!また逆だよ!」
でも、子どもがわざと左右を間違えているわけではありません。
そこには、空間認知・身体感覚・視覚処理など、発達段階の“まだ途中”の力が関係しています。
このブログでは、よくある「靴の左右が逆になる」エピソードを出発点に、
- どうして左右が分からないのか?
- どんな力が育つと分かるようになるのか?
- 家庭でできるサポートは?
という視点で、わかりやすく解説していきます。
第2章 “靴の左右が分からない”のは「空間認知」の課題?
「空間認知」とは、ものの位置・方向・大きさ・距離などを、見たり感じたりして正しく把握する力のことです。
靴を正しく履くには、
- 自分の身体の左右を把握する
- 靴の向きや形を視覚的に見分ける
- 足と靴を一致させて動かす
という複数の処理が同時に求められます。
つまり、「靴の左右を間違える」のは、
- 不注意や怠けているわけでも
- 親のしつけが足りないのでもありません。
脳と身体の発達がまだ途中なだけなのです。
第3章 左右の理解は「発達の順序」に沿って育つ
子どもの空間認知の発達には、順序があります。
概ね以下のように発達していきます。
- 上下や前後の区別(1〜2歳ごろ)
- 左右の区別(4〜6歳ごろ)
- 他者と自分の左右の区別(6歳以降)
- 地図・図形・位置関係の把握(小学生以降)
左右の認知は、就学前後まで不安定であることが普通なのです。
保育士や小学校教員のあいだでも、「小1の半ばまで左右が混ざる子は多い」と言われています。
第4章 「左右がわからない」に関係する3つの発達要素
(1)ボディイメージ(身体の感覚)
自分の体を頭の中で正確に把握する力のこと。
左右の区別がつくには、「これは右足」「こっちは左手」という自覚が必要です。
ボディイメージがまだ未成熟だと、「どちらの足にどの靴を履けばいいのか」があいまいになってしまいます。
(2)視覚認知・視空間処理
- 靴のつま先と踵の向きの違い
- 左右のカーブの違い
- 置かれた靴の位置と、自分の体の向きを一致させる能力
これらの視覚処理能力が未熟だと、見ているつもりでも、うまく情報を活かせません。
(3)感覚統合の未熟さ
たとえば、
- 足の裏の感覚が鈍い(感覚鈍麻)
- 靴のフィット感の違いに気づけない
- 足に意識が向きにくい(注意の分散)
といった状態があると、靴が逆でも気づかずに過ごしてしまうのです。
第5章 家庭でできる“左右の感覚”を育てる5つの工夫
1. 靴に「目印」をつける
- 左右がつながる絵(パズル絵、動物、乗り物など)
- 靴底やインソールに矢印や顔マーク
- 色分け(左=青、右=赤など)
→ 視覚から「間違いに気づく」手助けに。
2. 左右の意識を育てる遊び
- 「右手はどっち?」「左足をあげて」などの体遊び
- 鏡を使った左右対称ポーズ
- 「右に曲がって、次は左」といったゲーム感覚の移動
3. 身体を使った体験を増やす
- ケンケンパー
- 障害物競走(右回り・左回りなど)
- 靴を履いて歩いて、違和感を感じる経験も大切
4. 習慣化の力を借りる
- 靴を“並べて脱ぐ”ことをルールに
- 脱ぐときから左右を意識させておくと、履くときの混乱が減ります
5. できたときはすかさず「見つけて」ほめる
- 「自分でちゃんと左右そろえて履けたね」
- 「昨日より速く履けた!」
→ 成功体験が定着につながります
第6章 “失敗して学ぶ”というモンテッソーリの視点
モンテッソーリ教育では、「自分で間違いに気づく」ことを重視します。
- 靴を左右逆に履いて歩きづらい
- 見た目が変だと気づく
- 周囲に教えられて直す
これらのプロセスは、貴重な学びのチャンスです。
何度も間違えながら、「違いに気づく力」や「正解を選ぶ力」が育っていきます。
第7章 それでも不安なときは専門機関へ
以下のようなサインがある場合は、発達支援の専門家に相談してみてもよいでしょう。
- 小学校に入っても左右が混乱している
- 靴以外にも、服の前後・食具の使い方・身体の操作に困難がある
- 作業や運動全般にぎこちなさが見られる
児童発達支援事業所や療育センターには、作業療法士(OT)や心理士が在籍しており、評価と支援が可能です。
最後に:左右が逆でも、それは“育ちの途中”の風景です
左右が逆になるのは、「まだ育っている途中」という証です。
できないことにばかり目がいくと、「注意」「指摘」「焦り」が増えてしまいますが、それは子どもにとってもプレッシャーです。
- 工夫してみる
- 見守ってみる
- できたときにほめてみる
この繰り返しが、「やってみよう」「できた!」という自信の芽を育てます。
子どもの空間認知は、ある日突然開花するように育つこともあります。
今は逆でも、来年には自然とできるようになっているかもしれません。
今日も一歩ずつ、子どもの“育ち”を信じていきましょう。