“お片づけして”が伝わらないのはなぜ?〜『分類』の力と視覚支援の工夫〜

朝、遊び終わったおもちゃが床に散らかっているリビング。あなたはすぐに「お片づけしてね」と声をかけます。ところが、「はい!」の返事を期待していたのに、子どもはそのまま遊び続けるか、じっと動かないまま返事もありません。その沈黙に、あなたの心は小さくざわつきます。
- 「言ったのに聞いてくれへん…」
- 「片づけたい気持ちはあるはずやのに」
- 「うちの言い方が悪いんかな?」
- 「なぜ伝わらへんの?」
そんな焦りや不安がふつふつとわいてくる日、あなたは自分を責めたくなるかもしれません。でも、子どもが「片づけ」に反応できないのは、単純にわがままなせいではなく、「分類の力」がまだ育っていないからかもしれないのです。
「分類」とは、ものを見た目や種類、用途 etc. にわけて整理する力のこと。「これはブロック」「これはぬいぐるみ」というように物をグループ化できる能力があれば、「おもちゃはこの引き出しに」、…と行動の構造が見えやすくなり、片づけがしやすくなります。しかし、この分類の概念が曖昧な段階では、「お片づけして」という言葉だけでは、子どもの頭の中に整理できる絵を描けない状態が生まれます。
言葉だけに頼らず、「見せる」支援を加えることによって情報が整理され、子どもは自然に動き出せるようになります。
このブログでは、分類の発達、誰にでも使える視覚支援の工夫、そして家庭での具体的な実践方法を、発達心理学の知見とともに分かりやすく整理していきます。
第1章:分類(カテゴリー分け)のスキルが育つ意味と発達段階
1. 分類とは、なぜ大切か?
分類とは、目に見える特徴(色・形・大きさなど)や用途・機能でものをグループに分ける認知の力です。たとえば、色で分けるだけでも「赤いブロック」「青いブロック」などが直感的に整理できます。そこからさらに複雑な分類へと発展するのが「大きさ」や「役割」などの理解。
この力が育つことで、日常の中の「何をどこに置くか」という選択において、子ども自身である程度判断できるようになります。言い換えれば、分類力は「自分で世界を整理できる力」であり、片づけだけにとどまらず、学びや人間関係を理解する基盤にもなる非常に重要な能力です。
2. 分類力の発達段階
子どもの分類力は、発達に伴い段階的に成熟していきます。Piaget(ピアジェ)の認知発達理論では、未就学児期(おもに2〜7歳)の「前操作期」にあたり、以下のような推移をたどります。
- 2〜4歳ごろ:見た目の類似性(色・形・サイズ)が頼り。たとえば「丸いもの」「赤いもの」など。
- 4〜5歳前後:用途や意味を含む分類が始まる。「お絵かきに使うもの」「食べるときに使うもの」など、目的に応じた整理が少しずつ可能に。
- 5歳以降:複数の分類基準を組み合わせられるようになり、「重さ」「大きさ」「使う時間帯」など、複雑な分別ができるようになります。
ここでポイントなのは、分類が発展するためには「何を基準に分けるのか」が子どもに伝わっている必要があるということです。言葉だけでは、分類の基準が伝わらず、混乱してしまうことも少なくありません。
第2章:なぜ「お片づけ」が伝わらないのか?—目から理解する力とのギャップ
1. 抽象的な指示は動かせない
「お片づけして」はふつうの会話では自然かもしれませんが、これは抽象的すぎる指示です。子どもは例えば
- 「どこに入れるの?」
- 「何から片づければいいの?」
- 「全部片づけないといけないの?」
など、いくつもの問いが頭の中に生まれ、整理できずに動けない場合があります。言葉だけでは、分類の基準もゴールも見えづらいため、結果的に行動に結びつきにくくなるのです。
2. 見通せない指示は不安につながる
人間は、「見通しがある」ことで安心感が生まれ、動きやすくなります。逆に「いつ終わるかわからない」「どうすればいいかわからない」状況では、子どもの脳は混乱して動く余裕を失ってしまうことが多々あります。視覚支援なしでは、指示の中身が頭の中でフワフワする感覚になり、行動につながりにくくなるのです。
3. 個人差も大きい
分類力には発達の個人差があります。同じ歳でも、分類の基準が「色」中心の子もいれば、「使う場所」や「目的」から分類するのが得意な子もいます。この個人差をふまえない関わりは、「片づけられない子」とレッテルを貼るリスクにつながります。より正確には、「分類の基準を理解できていない」状況であることも多いのです。
第3章:視覚支援によって伝わりやすくする工夫
具体的な視覚支援によって、子どもがお片づけの構造を理解しやすくなり、「どうすればいいか」が目に見えるようになります。
1. 視覚スケジュールやルーティン表示
視覚スケジュールを絵や写真で用意し、
- 遊ぶ
- ピックアップする
- しまう場所に戻す
のように、手順を見せると行動がスタートしやすくなります。発達支援でも、ルーティン提示は定番の支援法です(例:ルーティンカード)。
2. “First–Then”戦略
「まず片づけをして、それから好きな遊び」というシンプルな構造で視覚的に提示します。「First 洗ったおもちゃを箱に入れる → Then ブロックで遊ぶ」といった形で見通しが立ちます。これは指示のゴールが明確になり、子どもが安心して動けるようになる支援法です。
3. 片づけ場所に写真・絵を貼る
おもちゃ箱や引き出しに「中に入れるものの写真や絵」を貼ることで、「ここに何を入れるか」が明示されます。視覚情報と一致させることで、分類の手がかりが強化されます。
4. 色や形で箱を分ける
ブロックは青い箱、ぬいぐるみは赤いバッグ、パズルは丸いタッパーなど、色や形で入れ物を区別すると、「どれをどこに」のひっかかりが減り、片づけがスムーズになります。
5. チェックリストやスタンプで達成感をつける
「全部片づけたら、スタンプ」「できたらシール」など、目に見えるご褒美を用意すると、子どもにとって「片づける意味」が手ごたえとして感じられます。
第4章:家庭でできる具体的ステップ
以下に、ご家庭ですぐに取り入れられるステップをまとめます。
- 分類しやすい環境づくり
- 使っていないおもちゃは減らす・整理する
- 箱やバスケットを使ってジャンル分けする(例:ぬいぐるみ、車、絵本など)
- 手順を一緒に作って貼る
- 写真や絵で「①拾う → ②しまう → ③終わりに◯◯をする」というルーティンを作り、子どもと一緒に書いて貼る
- 遊びながら分類を体験させる
- 色別にマンカラの実で遊ぶ、形(丸・四角)分け遊び、野菜カードを種類別に分けるなど、遊びとして分類を体験
- 小さな成功を捉えて褒める
- 「ほんの2つ片づけたね!すごいよ」などの声かけで、自己効力感を育む
- テンポを大切にする
- 音楽や歌を使って、テンポ良く「5秒でお片づけしよう」など、楽しく取り組める工夫を
- 視覚支援を続けながら少しずつ手を離す
- 最初は視覚支援をしっかり使い、そのうちに双眼的に指示なしでもできるよう少しずつ移行する
第5章:気になるときは専門の視点も活かそう
1. 発達特性の可能性を見逃さない
片づけがどうしても伝わらず、反応が鈍い、固まってしまう、繰り返し指示しなければ動けないなどのサインがある場合は、発達特性(自閉スペクトラム症:ASDなど)の可能性も念頭に置くことが大切です。
2. 専門家によるアセスメント
専門家による感覚処理や分類スキルの評価を受けると、どの感覚情報が苦手か、どのような視覚支援が効果的かを具体的に指導してもらえます。
3. 教育相談や幼稚園・保育園との連携
園の先生や幼稚園相談員と連携し、ご家庭でうまくいっている工夫を園にも共有し、「片づけ」が共通の習慣になるように環境を整えていくと効果が高まります。
最後に:分類できるようになるとは、世界を「整理」できる力を育てること
「ただのお片づけ」ではなく、子どもが自分で環境を整理できるようになることは、自立と安心感につながります。
- 分類できる力があれば、“何をどこに置けばいいか”が頭の中で整理できる
- 視覚支援を加えることで、行動を始めるスイッチが自然と入るようになる
- 小さな成功の積み重ねが、「できた!」という自信になる
そして何より、親が「伝わらない理由」を理解して関わることで、親子関係に温かい余裕が生まれます。焦らず、その子のペースに合わせて、安心して動ける環境を一緒に整えていきましょう。