スマホ2時間条例は意味があるのか?― 豊明市の挑戦から考える「大人と子どもとデジタル社会」 ―

「スマホは1日2時間まで」――。
2025年10月、愛知県豊明市で施行されるこの条例は、全国的に注目を集めています。これまで香川県の「ゲームは1日60分」条例などはありましたが、今回の豊明市の条例は 全国初の“全年齢対象”条例。つまり、子どもだけでなく大人も含めて「余暇時間のスマホ利用は2時間以内を目安に」と促しているのです。
果たして、この条例は実効性を持つのでしょうか?
発達支援の現場に長く関わってきた立場から、この条例の意味と課題、そしてスマホとの本当の向き合い方について考えてみたいと思います。
豊明市条例のポイント
まずは今回の条例の特徴を整理してみましょう。
- 対象は市民全員(子どもも大人も)
- 「仕事・学習・家事」を除いた余暇時間において、1日2時間以内を目安とする
- 強制力はなく、あくまで「望ましい」とされる目安
- 市民同士の監視や行政の介入を意図するものではない
- 「自由と多様性を尊重すること」「市民意見を丁寧に反映すること」が附帯決議として明記
つまり、「守らないと罰則」という条例ではなく、市民に“スマホとの健全な付き合い方”を意識させるための呼びかけに近いものです。
なぜ「時間」で線引きをしたのか?
条例の背景には、スマホやゲームの長時間利用による 睡眠不足や生活リズムの乱れ が子ども・大人を問わず深刻化している現状があります。
- 子ども → 夜更かしによる学力低下・体調不良・不登校
- 大人 → SNS疲れ・睡眠不足・仕事効率の低下
これらは医療や教育現場でも共通して問題視されており、「2時間以内」という明確な目安を出すことで、家庭や個人が自己管理のきっかけをつかみやすくする狙いがあります。
海外のガイドラインとの比較
では、国際的にはどうでしょうか?
WHO(世界保健機関)
- 2歳未満:スクリーンタイムは推奨しない
- 2〜5歳:1日1時間未満
米国小児科学会(AAP)
- 幼児期は1時間程度までを推奨
- 学齢期以上は「時間よりも内容・生活習慣とのバランス」を重視
👉 国際的には「子ども」に焦点を当てたガイドラインが多く、大人も含めて一律に規制する豊明市の条例は極めてユニークです。
「大人も2時間まで」の非現実性
ここで大人の生活を考えてみましょう。
- 仕事のメール・チャット
- ニュースや地図アプリ
- 家族との連絡
これらを含めると、スマホ利用が2時間で収まる人はほとんどいません。条例は「仕事・学習は除外」としていますが、余暇での動画やSNS利用も生活の一部になっている現代において、「2時間」という枠はやはり現実離れしています。
しかし、非現実的だからこそ「自分の生活を見直すきっかけ」としての意味を持つとも言えます。
子どもへの影響 ― 時間より質
発達支援の現場から見ても、スマホ利用の影響は“時間”より“質”が重要です。
- 教育アプリや言語支援アプリ → 発達を後押し
- 無目的な動画視聴 → 集中力低下・昼夜逆転
条例が「時間」を強調することで、保護者が“とにかく減らす”方向に傾きすぎるのは懸念されます。大切なのは 「どう使うか」「誰と使うか」 です。
自己調整力を育てるチャンス
条例をきっかけに、家庭や学校で「スマホをどう使う?」と話し合う場が生まれるなら、それは大きな一歩です。
スマホの使い方を通して、
- 自分で時間を調整する
- ルールを守る理由を理解する
- 失敗から学び修正する
これらはすべて「非認知能力」を育てる教材になります。AI時代を生きる子どもに最も必要なのは、この自己調整力です。
大人も問われている
この条例のユニークさは「大人も対象」だということ。
つまり、子どもに「やめなさい」と言う前に、大人自身が「自分はどうスマホと付き合っているか」を突きつけられているのです。
- 食事中もスマホを見ていないか?
- 子どもと過ごす時間にSNSを優先していないか?
子どもは大人の姿を見て育ちます。条例の本当の意義は、大人自身の姿勢を変えることにあるのかもしれません。
私の現場体験から
以前、発達支援に通っていた子が、動画視聴のしすぎで不登校ぎみになっていました。
保護者は「スマホを取り上げれば解決するのでは」と考えていましたが、私は「親子で一緒にスマホ日記をつける」ことを提案しました。
すると、子ども自身が「長時間見ると頭が痛くなる」「朝起きられない」と気づき、自分から利用を減らすようになったのです。
外的な規制より、内面の気づきの方が行動を変える力になることを実感しました。
終わりに ― 条例よりも大切なこと
豊明市の「スマホ2時間条例」は、日本初の大胆な試みです。しかし、単に時間を縛るだけでは限界があります。
大切なのは、
- 子どもも大人も「自分に合ったルール」を作ること
- 家庭や学校で「どう使うか」を話し合う文化を育てること
- スマホを“非認知能力を育てる教材”に変える工夫
条例がゴールではなく、対話と学びのきっかけになれば、豊明市の挑戦は大きな意味を持つはずです。