“できるようにする”だけが支援じゃない 〜“できないまま”を受け止める勇気〜

療育や教育の現場で、私たちは日々「できるようになること」を目指しています。
ボタンを留める、列に並ぶ、人の話を最後まで聞く――。
一見どれも大切な力ですが、私はいつも心のどこかで問いかけます。
「できるようにする」ことが、支援のすべてなのか?
もちろん、“できる”ことは子どもに自信を与えます。
でも時に、“できるようになる”ことを急ぐあまり、“今のまま”の子どもを受け止める時間が減っているように感じるのです。
今日は、「できないまま」を認めることの大切さ、そしてその中にある“育ちの本質”について、少し立ち止まって考えてみたいと思います。
「支援=成長」ではあるけれど
児童発達支援の現場では、「成長を支える」ことが支援の目的とされています。
だから私たちは毎日のように「前よりできるようになった?」と記録を取り、個別支援計画を立てます。
でも、ときどき思うのです。
“成長”という言葉の裏には、**「できるようになる=良いこと」**という価値観が潜んでいるのではないかと。
たとえば、
・集団に入れた → ○
・我慢できない → ×
・課題に集中できた → ○
・じっとできない → ×
こうして「できる・できない」の2軸で支援を評価していくと、
“できない自分”を受け入れてもらえない子どもたちが生まれてしまう。
そして、子どもたちは「できない=ダメなんだ」と自分を責めるようになる。
それは、非認知能力を育てるどころか、自己肯定感を削ってしまう支援かもしれません。
“できない”にも理由がある
子どもが何かを「できない」とき、そこには必ず理由があります。
それは怠けではなく、発達の過程の中にある“段階”であり、時には環境の問題でもあります。
たとえば、
・感覚が過敏でボタンの素材が苦手
・音が多すぎて集中できない
・体幹が弱くて姿勢が保てない
・人の表情を読み取ることが苦手で会話が続かない
それを知らずに「練習すればできる」「慣れれば平気」と繰り返しても、子どもにとっては“つらい訓練”になってしまう。
大人ができない理由を理解し、環境を整えれば、
“できない”が“できるようになる”ことよりも先に、“安心して挑戦できる”場が生まれるのです。
「できない」を認めたとき、子どもが動き出す
私が支援現場でよく感じるのは、「できない」と認めてもらった瞬間に、子どもは動き出すということ。
「できないのもOKだよ」
「今はやりたくないんだね」
そう声をかけると、不思議と子どもが表情を緩めることがあります。
安心が生まれると、人は挑戦する意欲を取り戻します。
逆に、いつも「できないこと」を指摘されると、子どもは**“失敗しないために挑戦しない”**ようになります。
できないままでも見守られる経験は、
「自分はこのままでも価値がある」という自己肯定感の土台になる。
その上で初めて、“できるようになりたい”という内発的な動機が育つのです。
“目標”がいつのまにか“ノルマ”になっていないか
療育や教育では、目標を立てることが基本です。
でもその目標がいつのまにか“ノルマ”になってしまうことがあります。
「この期間でここまでできるように」
「来年度のモニタリングではこの項目を達成」
支援計画が書類のための“チェックリスト”になってしまうと、
子どもの成長ではなく、“成果”を出すことが目的化してしまう。
本来の支援計画は、
「今、どんなふうに生きているか」
「どんな支えがあれば安心して過ごせるか」
を丁寧に見つめるためのもの。
“できないまま”をどう支えるかを記録できるのが、本当の計画書だと思います。
“支援”の前に、“共感”があるか
どんなに優れた支援技術も、子どもが安心していなければ届きません。
私はよくスタッフに「支援より共感が先」と伝えています。
共感とは、「かわいそう」と思うことではなく、
**“あなたの感じていることを理解しようとする姿勢”**です。
・嫌がる理由を想像する
・失敗した時の気持ちを受け止める
・できないままの時間を一緒に過ごす
それだけで、子どもは「わかってもらえた」と感じる。
共感から生まれた関係は、どんな支援よりも強い土台になります。
“できない”を受け止めるのは、大人の勇気
“できないまま”を受け止めるのは、実は大人の側に勇気が要ります。
なぜなら、「変えたい」「成長させたい」という気持ちは、支援者や親の“願い”だからです。
そしてその願いが強すぎると、“今のまま”を受け入れる余白がなくなってしまう。
でも、支援とは「変えること」ではなく、**「その子のペースを信じること」**でもあります。
待つこと、焦らないこと、比べないこと――それは簡単なようでいて、最も難しい。
だから私は、「できないまま」を受け止められる大人は、一番強い支援者だと思っています。
“できないまま”が教えてくれること
“できない”という状態には、たくさんの学びが隠れています。
・どうすればうまくいくかを考える力
・助けを求める力
・諦めずに挑戦する力
・人に頼れる力
つまり、「できない」は“成長していない”ではなく、
**「人として育っている途中」**というサイン。
“できない”を通して人は、他者との関わりを学び、助け合いを知る。
それこそが、非認知能力を育てる原点だと思います。
終わりに ― “できるようにする”から、“安心して生きる”へ
私たちはつい、「できるようにすること」に価値を置きがちです。
でも、本当に大切なのは、“できる・できない”に関わらず安心して生きられること。
支援のゴールは、
「みんなと同じようにできるようになる」ことではなく、
「自分らしく生きていけるようになる」ことです。
そのためには、“できない”を否定せず、受け止める大人の存在が欠かせません。
そして、できないままでも安心できる環境こそが、子どもを伸ばす一番の土壌です。
“できない”を受け止める勇気が、
“できるようになる”力を引き出す。
それが、私が信じる支援のかたちです。
👉 療育センターエコルドでは、「できるようになる」支援だけでなく、「安心してできなくてもいい」時間を大切にしています。
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