“声をかけても動かない”〜“わかっているのに動けない”子どもの実は深い理由〜

「何度言っても動かない…」というもどかしさ
「早く着替えてね」と言っても、なかなか動かない。
「片づけよう」と声をかけても、ぼーっとしたまま。
「ごはんだよ!」と何度呼んでも反応がない。
そんな子どもの姿に、つい「聞こえてる?」「どうして動かないの?」と焦ってしまうことはありませんか?
保護者の方の中には、「わかってるのに動かないなんて、やる気がないのかな」と感じてしまう方もいるかもしれません。
でも実は、「動けない」には、“わかっていない”とも“やる気がない”とも違う理由があるのです。
それは、脳の発達と「行動を始める力(実行機能)」が関係しています。
この記事では、“動かない子”に見える行動の裏側にある発達のメカニズムと、
家庭でできる具体的なサポート・声かけの工夫を紹介します。
第1章:「わかっているのに動けない」ってどういうこと?
行動には“3つのステップ”がある
子どもが何かを「する」ためには、次の3つのステップが必要です。
- 言葉や状況を理解する(理解)
- やるべきことを思い出し、計画する(整理)
- 体を動かして実行する(行動)
この3つの流れのどこかが難しいと、「わかってるのに動かない」ように見えるのです。
たとえば、
- 「着替えてね」と言われても、“何からすればいいか”が浮かばない
- 「おもちゃを片づけて」が、“どこにしまうのか”で止まってしまう
- 「早くして」と言われると、焦ってさらに動けなくなる
これは怠けているのではなく、脳の処理に時間がかかっている状態です。
実行機能の発達とは?
“実行機能”とは、「やるべきことを理解し、順序立てて行動する力」のこと。
大人でいえば、「段取り力」や「切り替え力」といった能力にあたります。
実行機能は、脳の前頭前野が発達することで少しずつ育ちますが、
乳幼児期から小学校低学年ごろまではまだ未熟です。
つまり、「動かない」のではなく、
“動き出すまでの準備に時間がかかる” ということ。
声かけ例
- 「今から着替えるね」ではなく、「まずズボンからはこうね」と一歩ずつ具体的に。
- 「どうしたの?」ではなく、「何から始めようか?」と行動を小分けにする。
第2章:「動けない」子どものよくある4つの背景
① 言葉の指示が多すぎる
「○○して、終わったら△△してね!」と一度にたくさん言われると、
子どもの頭の中では情報が混乱してしまいます。
ポイント:脳は「ひとつのことに集中」して処理する仕組み。
2つ以上の指示が入ると、“どこからやるか”で止まってしまいます。
声かけ例
- 「まず靴をはこう」→できたら「次は帽子ね」と、順に伝える。
- 「全部じゃなくて、ひとつずつでいいよ」と安心を添える。
② 注意の切り替えが苦手
夢中になって遊んでいるときに「片づけて」と言われても、
気持ちの切り替えが追いつかず、“聞こえていないように”見えることがあります。
声かけ例
- 「もうすぐ片づけの時間になるよ」と、少し前に予告。
- 「これを終わったら片づけね」と“区切り”を伝える。
子どもにとって「終わる」は“喪失”。
大好きな活動ほど、「やめる」には時間がかかるのです。
③ 感覚や身体の準備が整っていない
体の感覚が鈍い、あるいは過敏な子は、
“動く準備”を整えるのに時間が必要です。
また、脳と身体の協調(ボディイメージ)が未発達だと、
「動き方がわからない」ために止まってしまうこともあります。
声かけ例
- 「手をこうして持ってみようね」と体を一緒に動かす。
- 「ママと一緒にやってみよう」と共同行動でスイッチを入れる。
④ “失敗したくない”気持ちが強い
「早く」「ちゃんとして」と言われることで、
“うまくできない自分”を意識してしまい、不安で動けなくなるケースもあります。
特に慎重なタイプの子は、“失敗するくらいなら動かない方がいい”と感じることがあります。
声かけ例
- 「ゆっくりでいいよ」
- 「間違っても大丈夫、ママが一緒にやるよ」
安心感が“行動のスタートボタン”になります。
第3章:「動き出せる」ようになる家庭での工夫
① 行動を“見える化”する
頭の中だけで行動を整理するのは難しいため、
「見てわかる」工夫を取り入れましょう。
- 朝の準備表(イラスト・写真付き)
- 「やることカード」を順に並べる
- 完了したら“できたシール”を貼る
声かけ例
- 「次は何だったかな?カードで見てみよう」
- 「ひとつできたね、次のカードに進もう」
これにより、頭の中の混乱が減り、“次に進む力”が育ちます。
② “始めやすい環境”をつくる
「動き出す」にはエネルギーが必要です。
見えない不安や迷いを減らすだけでも、行動のハードルが下がります。
- 片づける場所を明確に(箱にラベルや写真)
- 朝の支度道具を1か所にまとめる
- 支度の順番を色で示す(青=着替え、赤=歯みがき)
声かけ例
- 「青いところからやろう」
- 「ここにあるもので準備できるね」
③ “スタートの合図”を一緒に決める
行動を始めるきっかけを“儀式化”するのも効果的です。
- 「3・2・1・スタート!」と声を合わせる
- 手をタッチして合図
- 好きな歌の一節を口ずさんでスイッチを入れる
声かけ例
- 「スタートサインいくよ!」
- 「いっしょに3・2・1して始めよう」
脳は「楽しさ」を感じると行動が起こりやすくなります。
④ “できた!”を丁寧に伝える
行動できた瞬間をしっかり認めることで、
脳の「やる気回路(報酬系)」が活性化します。
声かけ例
- 「今、自分で動けたね!」
- 「少し時間かかったけど、ちゃんとできたね」
「動くまでの時間」も、その子にとっては努力のプロセスです。
第4章:園や学校との連携のヒント
「動けない」「指示が通らない」ことは、家庭だけでなく集団の中でも起こります。
先生に伝えておくとサポートしやすくなります。
伝えておきたいポイント
- 一度に複数の指示があると動けなくなる
- 行動の見通しを持てると落ち着く
- 行動を促すときは「今やること」を一つずつ伝えてほしい
家庭と園・学校で同じアプローチを取ることで、
子どもが“混乱しない環境”を整えることができます。
第5章:“行動の準備”を育てるステップ
- 理解する力を支える
→ 言葉だけでなく、絵・動作・ジェスチャーも使う。 - 計画を立てる力を支える
→ 「何を」「どの順番で」するかを一緒に考える。 - 行動を始めるきっかけを支える
→ スタート合図・声かけ・身体サポートなど。 - 完了と達成感を支える
→ 「ここまでできたね」と見える形で喜びを共有。
この“4つの支え”を繰り返すことで、
子どもは少しずつ「自分で動ける力」を身につけていきます。
第6章:相談を検討してもよいサイン
もし、次のような傾向が強い場合は、専門機関に相談してみましょう。
- 呼ばれてもほとんど反応がない
- 日常生活の多くで行動の開始に極端に時間がかかる
- 指示やルールを理解しても、実行が困難
- 強い不安やパニックを伴う
発達支援センターや療育センターでは、
実行機能・注意機能・感覚処理などの発達を丁寧に評価し、
「その子に合った動き出しの支援方法」を提案してもらえます。
最後に:“動かない”は「がんばっている」のサイン
子どもが“動けない”のは、怠けているからではなく、
「どう動いたらいいかを一生懸命考えている」から。
- 行動のステップを小さくする
- 指示を見える形で示す
- スタートを一緒に切る
- できた瞬間をしっかり認める
それだけで、子どもは「自分でできた」という実感を持てるようになります。
子どもが止まって見えるその瞬間にも、
脳の中では“動くための準備”が進んでいます。
焦らず、急がず、寄り添いながら。
その小さな一歩が、“自分から動ける力”へと育っていくのです。