“泣き止ませようとすると逆効果”〜泣く力の意味と寄り添い方〜

「泣かないで」「早く落ち着いて」と思ってしまう瞬間
買い物中に泣き出す、寝る前にぐずる、思い通りにならなくて泣き叫ぶ…。
そんな場面で、「どうして泣くの?」「泣かないでほしい」と焦ったり、
「泣くたびに甘えてるのでは?」と不安になることはありませんか?
実は、子どもの“泣く”という行動には、深い意味があります。
それは「困っている」「助けてほしい」という単なるサインではなく、
自分の気持ちを整理しようとする“感情の調整行動”でもあるのです。
ところが、私たち大人が“泣き止ませよう”と急ぐほど、
子どもは余計に泣き続けてしまうことがあります。
この記事では、“泣き”という行動を「育ちの力」として見直し、
泣いている子どもにどう寄り添えばよいのか、
発達心理と情動調整の観点からわかりやすく解説します。
第1章:子どもにとって“泣く”とは何か
“泣く”は感情を整理するための行動
子どもの脳は、まだ感情を言葉で整理する機能が未発達です。
そのため、不安・怒り・悲しみ・疲れといった感情があふれると、
**「泣くことで心のバランスをとっている」**状態になります。
泣く=困らせている、ではなく、
泣く=安心を取り戻そうとしている、という理解が大切です。
声かけ例
- 「びっくりしたんだね」
- 「悲しい気持ちがいっぱいになったね」
言葉で気持ちを代弁してあげると、
子どもの脳が「自分の感情を理解してもらえた」と感じ、少しずつ落ち着きます。
“泣き止ませる”ではなく“気持ちに寄り添う”
大人が「泣かないの」「もう終わり」と止めようとすると、
子どもは「気持ちをわかってもらえなかった」と感じ、
さらに強く泣くことがあります。
それは、“理解してもらえるまで伝えよう”という自然な反応。
声かけ例
- 「泣いてもいいよ」
- 「気持ちが落ち着くまでここにいるね」
「泣くことを受け止めてもらえた」と感じると、
子どもは自分で気持ちを整理できるようになっていきます。
第2章:“泣く”を通して育つ心の力
① 自分の気持ちを感じ取る力
泣く経験を通して、子どもは「これは悲しい」「これは悔しい」といった感情を認識します。
この“気づく力”が育つことは、やがて「ことばで伝える力」につながります。
声かけ例
- 「悔しかったね」
- 「がんばってたもんね」
気持ちに名前をつけてもらうことで、
子どもは“泣き”を少しずつ“ことば”に変えていけるようになります。
② 安心を取り戻す力
泣くことで体にたまった緊張やストレスが少しずつ解放されます。
涙を流すことで副交感神経(リラックスの神経)が働き、
心拍や呼吸がゆっくりに戻っていくのです。
泣き切ったあとの“すっきりした表情”は、
まさに心が落ち着きを取り戻したサインです。
③ 他者との信頼を育てる力
泣いたときにそばにいてもらえる経験は、
「自分は受け止めてもらえる存在なんだ」という基本的信頼を育てます。
声かけ例
- 「泣いても大丈夫。ママはここにいるよ」
- 「悲しいときは、そばにいてもらえると安心だね」
この“泣いても見捨てられない”体験が、
やがて人とのつながりを信じる力になります。
第3章:泣いている子にどう寄り添えばいいか
① まずは「安全」を確保する
泣いているとき、子どもの体は緊張状態にあります。
まずは体を包むように抱きしめたり、背中をやさしくさすったりして、
身体的な安心を与えましょう。
声かけ例
- 「大丈夫、ここにいるよ」
- 「ギュッてして落ち着こうね」
抱っこやスキンシップは、
脳に「安心していい」というメッセージを伝えます。
② 気持ちを言葉にしてあげる
泣いている子どもは、まだ自分の感情を整理できていません。
「泣く=伝える」ことしかできない状態です。
声かけ例
- 「悲しかったね」「悔しかったね」
- 「がんばってたから、うまくいかなくて泣いちゃったんだね」
大人が“気持ちの通訳”をしてあげると、
子どもは「わかってもらえた」と感じて安心します。
③ 落ち着いてから“次”を考える
泣いている最中に理由を聞いたり、説得したりしても、
子どもの脳はまだ“聞く準備”ができていません。
まずは感情を出し切ることを優先し、
落ち着いてから一緒に振り返りましょう。
声かけ例
- 「泣き終わったらお話ししよう」
- 「今は気持ちがいっぱいなんだね」
落ち着いたあとに、「どうしたかったの?」「次はどうする?」と考える時間を持つと、
“泣いて終わり”ではなく、“泣いて整理して、学ぶ”体験になります。
第4章:泣く場面別の寄り添い方
【1】眠い・疲れたとき
→ 身体的な疲労が原因のときは、言葉よりも環境の調整を。
声かけ例
- 「疲れたね、もう少しでおやすみしよう」
- 「静かなところでゴロンしようか」
静かな空間と一定のリズム(トントンなど)が、心を落ち着かせます。
【2】思い通りにならないとき
→ “自分でコントロールできない” frustration(欲求不満)が原因。
声かけ例
- 「やりたかったんだね」
- 「できなくて悔しかったね」
否定せず気持ちを受け止めることで、
「ダメ」ではなく「理解された」と感じるようになります。
【3】叱られたあとに泣くとき
→ 「怒られた」よりも「受け止めてもらえなかった」と感じていることが多いです。
声かけ例
- 「びっくりしたね」
- 「ママは〇〇ちゃんのことが嫌いになったわけじゃないよ」
叱るときも、「あなたがダメ」ではなく「行動が危なかった」と伝えると、
心が傷つきにくくなります。
第5章:泣くことを“支援の対象”として考える
泣きやすさには個性がある
情動の感受性には個人差があります。
繊細で刺激に敏感な子ほど、感情の波が大きく泣きやすい傾向があります。
それは“弱さ”ではなく、感じ取る力が豊かであるという特性です。
声かけ例
- 「優しい心を持っているから、いろんなことを感じるんだね」
- 「泣くのは、心がちゃんと動いている証拠だよ」
泣く力は“自分を守る力”
泣けるということは、「安心して感情を出せる環境がある」ということ。
泣けない子ほど、心の中に“我慢”をため込んでいることもあります。
保護者が「泣いても大丈夫」と受け止めることで、
その子の“自己回復力(レジリエンス)”が育っていきます。
第6章:相談を検討するサイン
多くの子は成長とともに、泣く頻度や強さが落ち着いていきますが、
次のような場合は、専門機関への相談を検討してもよいでしょう。
- 日常生活のほとんどで強い不安や泣きが続く
- 落ち着くまでに極端に時間がかかる
- 感覚刺激(音・光・触覚)への過敏さが強い
- 言葉で気持ちを伝えることが難しい
発達支援センターや療育機関では、情動調整・感覚処理・発達段階を踏まえた支援を提案してもらえます。
最後に:“泣く”ことは、成長している証拠
子どもが泣くと、つい「どうしたら泣き止むか」を考えてしまいます。
けれど、泣くことは「成長している証拠」。
泣きながら感情を表現し、受け止めてもらうことで、
「自分は大切にされている」と感じるようになります。
- 泣くのを止めるのではなく、気持ちに名前をつける
- 抱きしめて、安心を伝える
- 落ち着いてから、一緒に次を考える
泣く時間は、心を育てる時間。
涙のあとに見える“ホッとした笑顔”は、
その子が少し強くなった証でもあります。
「泣いてもいい」「泣いても大丈夫」。
そう感じられる家庭こそ、子どもの心が一番育つ場所です。