兄弟姉妹がいるときの発達支援〜下の子・上の子の関わり方〜 複数の子どもがいる家庭での個別対応と、きょうだい関係の構築

複数の子どもがいる家庭では、親として向き合う課題が増えます。特に、子どもたちが異なる発達段階にあったり、発達に個人差がある場合、親は「どの子にも公平に対応したい」と願いながらも、現実には「時間が足りない」「対応に差がでてしまう」というジレンマに陥ることがあります。
しかし、療育現場での経験から言えることは、複数の子どもがいるからこそ、子どもたちは「兄弟姉妹から学ぶ」という、親一人では与えられない学びの機会を得ているのです。この記事では、複数の子どもがいる家庭で、どのように発達支援をしていくのか、そしてきょうだい関係をどう構築していくのかについて、実践的なアプローチを紹介します。
複数の子どもがいる家庭が直面する課題
親の時間と注意の配分に悩む
複数の子どもがいると、親の時間は必然的に分散します。上の子が学校から帰ってくるとき、下の子がお昼寝から目覚めるとき——。親は常に「どの子に今、注意を向けるべきか」という判断に迫られるのです。
この状況で、親が陥りやすい落とし穴があります。それは「下の子に手がかかるから、上の子は自分でできるだろう」という思い込みです。結果として、上の子は構ってもらえず、下の子に親の注意が集中してしまう。上の子は「自分は大事にされていない」という感覚を持つようになるのです。
逆に「上の子がお兄さん(お姉さん)だから、下の子の面倒を見てもらう」という役割分担も、上の子にプレッシャーをかけてしまうことがあります。
発達段階の違いへの対応の難しさ
上の子は1年生だけど、下の子はまだ幼稚園児。そうなると、親は全く異なる発達段階の子どもたちに対応する必要があります。上の子に「自分で片付けなさい」と言い聞かせながら、下の子には「一緒に片付けようね」と声をかける。この対応の使い分けは、親にとって大変な作業なのです。
また「上の子がこのくらいの時期にできたことが、下の子はまだできない」という経験は、親に不安をもたらすこともあります。実は、子どもは一人ひとり発達のペースが異なるのですが、上の子との比較が生まれやすいのです。
兄弟姉妹間での「不公平感」の発生
親が「公平に対応したい」と心がけていても、子どもたちは「不公平だ」と感じることがあります。例えば、下の子が療育センターに通っていて、上の子は通っていない場合、上の子は「自分も親の注意を引きたい」と思うようになることもあります。
この「不公平感」が蓄積すると、兄弟姉妹間での関係が悪化する原因になってしまうのです。
複数の子どもがいるからこそのメリット
しかし、見方を変えると、複数の子どもがいる家庭には、大きなメリットがあります。
兄弟姉妹からのモデリング
下の子は、上の子の行動を見て学びます。上の子が歯を磨く様子を見て、下の子は「歯を磨くって、こういうことなんだ」と理解するのです。これは「親からの指示」ではなく「実生活でのモデル」であり、子どもにとって非常に学びやすい形式なのです。
特に、発達支援が必要な子どもにとって、兄弟姉妹の行動を見ることは、言葉での説明よりも効果的なことがあります。
競争心や挑戦意欲の育成
上の子の姿を見ると、下の子は「自分もやってみたい」という気持ちが生まれます。逆に、下の子が何かに取り組む様子を見ると、上の子は「自分も手伝ってあげたい」という気持ちが生まれることもあります。
この「挑戦したい」「手伝いたい」という気持ちは、親からの指示では生まれにくいものです。兄弟姉妹がいることで、子どもたちの中に自然と生まれるのです。
思いやりや共感能力の発達
兄弟姉妹との関係の中で、子どもたちは「相手の気持ちを読み取る」という経験をします。上の子が下の子にイライラしているのに気づいて、親が「弟くん、今疲れているんだね」と伝えると、上の子は「相手にも理由がある」という理解を深めるのです。
このプロセスを通じて、子どもたちは共感能力や思いやりの心を育てるのです。
下の子への対応のポイント
下の子は、どうしても親の注意が向きやすいという特徴があります。年下で、サポートが必要だからです。しかし、その中でも大切なポイントがあります。
「下の子だから」という甘えを作らない
親が「下の子だから、仕方ないね」という態度を取っていると、下の子はそこに甘えるようになります。結果として、発達支援の機会を失ってしまうのです。
重要なのは、下の子にも「できることは自分でやる」という経験を与えることです。例えば、靴を脱ぐときも、親が全部やってあげるのではなく「自分で脱いでみようか」と促してみる。この小さな挑戦の積み重ねが、下の子の成長につながるのです。
上の子に「下の子の面倒を見てもらう」のではなく、「一緒に学ぶ」という関係を作る
「お兄さんだから、弟の面倒を見てね」という指示は、上の子にプレッシャーをかけてしまいます。代わりに、上の子と下の子が「一緒に何かをする」という体験を作ってあげましょう。
例えば、粘土遊びをするときに「お兄さんも、弟くんと一緒に作ってみようか」と提案する。すると、上の子は「親に言われた義務」ではなく「一緒に楽しむ喜び」を感じるようになります。
下の子を「上の子の先生」にしてみる
意外かもしれませんが、下の子にできることで、上の子ができないことがあります。例えば、細かい作業に集中力を持つ下の子が、上の子に「僕に教えてもらえますか?」と頼られるような場面を作ってみましょう。
下の子は「自分にも得意なことがある」という自信を持つようになり、上の子は「兄弟にも学ぶべきことがある」という謙虚さを学ぶのです。
上の子への対応のポイント
上の子は、複数の子どもがいる家庭では「しっかりしている子」というレッテルを貼られやすいです。しかし、上の子もまた、親からの注意や認識を必要としています。
「お兄さん(お姉さん)だから」という期待の圧力を減らす
上の子に「弟妹がいるんだから、ちゃんとしなさい」という期待をかけすぎると、上の子は自分の子どもらしさを失ってしまいます。上の子もまた、親に甘えたい時期があるのです。
親は意識的に「上の子専用の時間」を作ってあげることが大切です。週に一度、上の子だけと過ごす時間を設けることで、上の子は「自分も大事にされている」という感覚を得ることができるのです。
上の子の「できるようになったこと」に親の視点を合わせる
複数の子どもがいると、親は「下の子がまだできていないこと」に目を向けてしまいます。結果として、上の子の成長が見落とされることもあります。
意識的に「上の子、こんなことができるようになった」という視点を持つようにしましょう。親がそう見つめると、上の子は「自分は成長している」という自信を持つようになります。
上の子の「下の子への優しさ」をほめる
上の子が下の子に優しく接しているのを見かけたら、その場で「いいお兄さん(お姉さん)だね」とほめてあげましょう。しかし、ここで注意が必要です。
「いつもお兄さんぶっていて」という評価ではなく「今、〇〇ちゃんにやさしくしてくれたね」という、具体的な行動への評価が大切です。上の子は「自分は優しい人だ」という自己認識を持つようになります。
実際の場面での対応例
【場面1】上の子が「僕も一緒に行きたい」と言う場面
下の子が療育センターに通っており、その送迎のときに、上の子が「僕も行きたい」と言い出した場合です。
❌親の悪い対応:「お兄さんなんだから、我慢しなさい」
✅親の良い対応:「そっか、〇〇も来たいんだ。では、来週は一緒に行こうか」
親のポイント
・上の子の気持ちを受け入れる
・時には下の子の活動に上の子も一緒に参加させ、「家族として」という関係を大事にする
・その場で「〇〇が一緒にいてくれると、弟くんも嬉しいと思うよ」と伝える
【場面2】上の子と下の子が同じ場面でできることに差がある場合
上の子は自分で靴が脱げるけれど、下の子はまだ親のサポートが必要な場合です。
❌親の悪い対応:「上の子は自分でやって。下の子は親がやってあげる」という無言の差別
✅親の良い対応:「上の子は自分でやってみようか。下の子には親が手伝うね。両方のやり方で大丈夫」
親のポイント
・子どもたちに「発達段階が違うのは当たり前」という理解を作る
・親も「発達段階が違う=不公平ではなく、それぞれの今のステップを応援している」という意識を持つ
【場面3】下の子が親の注意を独占しすぎている場合
親が下の子のサポートに手いっぱいで、上の子が構ってもらえていない状況です。
❌親の悪い対応:「今は下の子が大変だから、上の子は待ちなさい」と繰り返す
✅親の良い対応:「ごめんね、ママは今下の子をサポートしているから、パパに遊んでもらおうか」または「5分待ってくれたら、一緒に遊ぼうね」と時間を決める
親のポイント
・親自身の時間配分の工夫を心がける
・時には家族以外のサポート(祖父母、ベビーシッターなど)も活用して、上の子との1対1の時間を作る
「公平」と「平等」の違いを子どもたちに伝える
複数の子どもがいる家庭で重要なのは「公平(フェア)」という概念です。「平等(イコール)」と「公平(フェア)」は異なります。
平等とは、全員に同じことをするということ。公平とは、その子が必要なサポートをするということです。
親が「あなたたちのことを同じだけ大事にしているけど、その子が必要なサポートは違うんだよ」という説明をしてあげると、子どもたちは理解するようになります。例えば、「弟は今、文字を学んでいる途中だから、読み方を教えてあげることが親の仕事。あなたは既に読めるから、今は違うことを学ぶ段階」という説明です。
この理解が生まれると、兄弟姉妹間での「不公平感」は減少し、代わりに「それぞれが違う段階にいるんだ」という理解が育つのです。
きょうだい関係を育みながら、個別の発達支援も進める
複数の子どもがいる家庭での発達支援は、実は両立できるのです。重要なのは「親の視点」です。
兄弟姉妹がいることを「親の負担」と見るのではなく「子どもたちが学び合う環境」と見ること。
上の子も下の子も、それぞれが「自分の今のステップ」に向き合い、同時に「兄弟姉妹との関係」の中で学んでいるのです。
親が「公平に対応したい」と心がけるのは素晴らしい。しかし、完璧に公平にすることは不可能です。大切なのは、親が「各々の子どもにとって必要なサポートをしている」という確信を持つこと。その確信があれば、子どもたちも「親は自分たちを大事にしてくれている」と感じるようになるのです。
複数の子どもがいる家庭は、親にとっては大変です。しかし同時に、子どもたちにとっては、兄弟姉妹から学べる、親だけからは得られない学びの場所でもあります。その両面を大事にしながら、親子で、兄弟姉妹で一緒に成長していく——それが複数の子どもがいる家庭の素晴らしさなのです。