子どもの「ごっこ遊び」が少ないと心配…それって問題ですか?〜象徴遊びの発達段階と、個差がある遊びへの向き合い方〜

「うちの子、ごっこ遊びをしない」「友達はお医者さんごっこをしているのに、うちの子は同じ動作を繰り返すだけ」「4歳なのに、ごっこ遊びができないのは発達が遅れているのかな」——。このような心配を持つ親は少なくありません。
療育の現場では、このような相談を頻繁に受けます。しかし、実は「ごっこ遊びができるかどうか」だけで、子どもの発達を判断することはできないのです。むしろ、親が大切なことは「ごっこ遊びの発達段階を理解し、その子にあった遊びの形を認めること」なのです。この記事では、象徴遊びの発達について、そして遊びに個差がある理由について、詳しく解説します。
象徴遊び(ごっこ遊び)とは何か
象徴遊びの定義
象徴遊びとは、子どもが「現在ここにあるもの」を「別のもの」に見立てて遊ぶ、という行為です。例えば、積み木を「ケーキ」に見立てたり、椅子を「乗り物」に見立てたりする遊びのことです。
この遊びが成立するには、子どもの脳が「これは積み木だけど、今は『ケーキ』として機能している」という、二重の認識を持つ必要があります。つまり、象徴遊びには、高度な認知能力が必要なのです。
象徴遊びが発達にもたらす意味
象徴遊びは、子どもの発達において、非常に重要な役割を果たします。
創造性の発達
象徴遊びを通じて、子どもは「物を別のものに見立てる」という、創造的な思考を育みます。これは、将来の問題解決能力や、芸術的な思考へとつながっていくのです。
社会的スキルの発達
「お店屋さんごっこ」のように、ルールのある遊びを通じて、子どもは社会的なやり取りを学びます。「お金を払う」「品物をもらう」といった、社会での基本的なやり取りを、遊びの中で体験するのです。
言語発達
ごっこ遊びの中で、子どもは様々な言葉を使います。「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」といった、社会的な言葉の使い方も、この遊びを通じて学ぶのです。
心理的な葛藤の処理
ごっこ遊びを通じて、子どもは「嫌だった体験」を「遊び」として再現することで、その体験を処理しようとします。例えば、病院での検査が怖かった子どもが「お医者さんごっこ」をするのは、その体験を心理的に処理しようとしているのです。
象徴遊びの発達段階
象徴遊びは、一度に出現するのではなく、段階的に発達していきます。
第1段階:1~1.5歳——「ごっこ的行動」の芽生え
この段階の子どもは、まだ真の象徴遊びをしていません。しかし「ままごと」の真似をしたり、大人の行動を模倣したりするようになります。例えば、おもちゃの電話を耳に当てる、おもちゃの茶碗で飲むマネをするなど。
この行動は「象徴遊び」というより「模倣遊び」ですが、後の象徴遊びへの大切な基盤となるのです。
第2段階:1.5~2.5歳——初期の象徴遊び
この段階で、子どもは「物を別のものに見立てる」ことが、少しずつできるようになります。例えば、積み木を「ケーキ」に見立てたり、ブロックを「お皿」に見立てたりするようになるのです。
ただし、この段階では、象徴遊びはまだ短く、シンプルです。また、ごっこ遊びは「一人遊び」として行われます。
第3段階:2.5~4歳——象徴遊びの拡がり
この段階で、象徴遊びはより複雑になります。子どもは、複数の物を関連付けて遊ぶようになります。例えば「お医者さんごっこ」では、スプーンを「注射器」に見立て、一連の「診察」の流れを遊ぶようになるのです。
また、この段階では、子どもが他の子どもと一緒に象徴遊びをするようになり、ルールのある遊び「お店屋さんごっこ」が可能になっていくのです。
第4段階:4歳以降——高度な象徴遊び
この段階で、子どもは「物語性」を持った象徴遊びができるようになります。例えば「お城の姫様になって、魔法使いから逃げる」というような、複雑なストーリーを持つ遊びができるようになるのです。
また、この段階では、子どもたちが「遊びのルール」を自分たちで作り、交渉しながら遊ぶようになります。
ごっこ遊びが少ない、または見られない理由
性格や気質による個差
子どもは、生まれつきの気質が異なります。「想像的な遊びが好きな子」と「物理的な動きが好きな子」という、基本的な気質の違いがあるのです。
例えば、「運動遊び」が大好きな子どもは、ごっこ遊びよりも「鬼ごっこ」や「ボール遊び」を好むようになります。これは「発達が遅れている」のではなく、単に「遊びの好み」が異なるだけなのです。
感覚的な特性
発達支援が必要な子どもの場合、感覚的な特性により、ごっこ遊びが得意でないことがあります。例えば、「想像すること」が苦手な子どもや、「役割を持つことにストレスを感じる子ども」がいるのです。
このような子どもは、ごっこ遊びよりも「物を並べる遊び」「同じ動作を繰り返す遊び」を好む傾向があります。
社会性の発達段階の個差
ごっこ遊びは、社会性の発達と密接に関連しています。そのため、社会性の発達段階に個差があれば、ごっこ遊びの出現時期にも個差が出るのです。
例えば「他の子どもに興味がなく、一人で遊ぶことを好む子ども」は、必然的にごっこ遊びが少なくなります。これは「発達の問題」ではなく「発達段階の個差」なのです。
環境的な要因
親や周囲の大人が「ごっこ遊び」の機会を作っていなければ、子どもがその遊びを試す機会がないのです。例えば、おもちゃの質や量、または親が一緒に遊ぶ時間の確保など、環境的な要因も影響するのです。
ごっこ遊びが少ない子どもへの関わり方
無理強いをしない
最初に大切なことは「ごっこ遊びをさせようとしない」ことです。「お医者さんごっこをしようか」と親が強く勧めても、子どもが乗り気でなければ、それは逆効果になってしまうのです。
実践のポイント
・子どもが自然と遊び始めるのを、焦らず待つ
・「遊びなさい」という指示ではなく「一緒に遊んでもいい?」という提案をする
・子どもが拒否した場合は、その気持ちを尊重する
その子の「好きな遊び」を大切にする
ごっこ遊びが少ない子どもでも、きっと「好きな遊び」があります。それが「物を並べる遊び」であれ「ブロックを積み重ねる遊び」であれ、その遊びは、その子の発達にとって必要な遊びなのです。
実践のポイント
・親は「その子が好きな遊び」を尊重する
・「その遊びのどういうところが好きなのか」を観察する
・好きな遊びを通じて、子どもの「創造性」や「集中力」が育っていることを認識する
「象徴性」を無理に求めない
象徴遊びができなくても、子どもは多くのことを学んでいます。例えば「同じ動作を繰り返す遊び」は、一見すると「発達が遅れている」ように見えるかもしれません。しかし、その行為を通じて、子どもは「秩序感」「集中力」「論理的思考」を育んでいるのです。
実践のポイント
・親は「象徴的思考が発達しているか」ではなく「この子が今、どんな能力を育んでいるのか」という視点を持つ
・その視点から、その子の遊びに価値を見出す
親が「ごっこ遊び的な要素」をさりげなく導入する
無理強いはしないが、親が「ごっこ遊び的な要素」をさりげなく遊びに混ぜることで、子どもが自然と象徴遊びへと移行することもあります。
実践のポイント
・ブロックで何かを作った時に「これ、何に見えるかな?」と親が問いかける
・「ケーキに見えるね」と親が言い、子どもがそれに乗っかってくるのを待つ
・「一緒に、このお店でケーキを売るごっこをしようか」と、さりげなく象徴遊びへと導く
しかし、重要なのは「導く」であって「強制する」ではないということです。子どもが乗り気でなければ、そこで止めることが大切なのです。
実際の場面での対応例
【場面1】4歳だが、ごっこ遊びをしない子の場合
❌親の悪い対応:「4歳なのに、ごっこ遊びができないなんて。もう一度教えてあげようか」と、繰り返し教える
✅親の良い対応:「この子は、ブロックで物を作ることが好きなんだ。その創造的思考を大事にしよう。そして、もしかしたら、もう少し時間がたつと、ごっこ遊びもするようになるかもしれない」と、その子のペースを尊重する
親のポイント
・発達段階の個差を理解する
・「ごっこ遊びができない=発達が遅れている」という思い込みを手放す
・その子が今、どんな遊びを通じて、何を学んでいるのかを見守る
【場面2】ごっこ遊びができるが、いつも同じ遊びばかりしている場合
❌親の悪い対応:「毎回同じお医者さんごっこばかり。もっと違う遊びをしてみたら?」と、新しい遊びを勧める
✅親の良い対応:「お医者さんごっこが好きなんだね。その中で、何か新しい要素が加わると面白いかな」と、その子が好きな遊びを基軸に、少しずつ変化を加える
親のポイント
・子どもが同じ遊びを繰り返すのは「発達が進まない」のではなく「その遊びを通じて、深く学んでいる」という見方をする
・同じ遊びの中に「小さな変化」を加え、子どもが自然とそれに乗るのを待つ
【場面3】友達とごっこ遊びができず、一人で同じ動作を繰り返す場合
❌親の悪い対応:「友達と一緒に遊びなさい。いつまで一人で同じことばかり」と、無理に友達との遊びを促す
✅親の良い対応:「その子は今、その遊びを通じて何かを学んでいるんだ。社会性の発達は、もう少し先かもしれない」と、その子のペースを受け入れる
親のポイント
・社会性の発達も、個人差が大きい
・友達との遊びを無理に促すのではなく、親が「一緒に遊ぶ喜び」を体験させることから始める
・親との関係が安定してから、他者との関係へと広がっていくプロセスを信頼する
ごっこ遊びができない子どもが発達させている、別の能力
実は、ごっこ遊びが少ない子どもは、別の領域で高い能力を発揮していることがあります。
論理的思考
「物を並べる遊び」「同じ動作を繰り返す遊び」は、子どもの「論理的思考」を育むのです。例えば「色分けして物を並べる」という行為は、一見すると「発達が遅れている」ように見えるかもしれません。しかし、実は「カテゴリー化する力」「秩序感」を育んでいるのです。
集中力と根気
同じ遊びを何時間も続ける子どもは、並外れた「集中力」と「根気」を持っています。この能力は、将来的に「研究者」「職人」「プログラマー」など、深い思考を必要とする職業で非常に活躍する力になるのです。
細かいところへの気づき
ごっこ遊びよりも「物を観察する遊び」を好む子どもは、細部への気づきに優れていることが多いのです。この力は「デザイナー」「エンジニア」などの職業で、非常に大切な能力なのです。
ごっこ遊びの多さだけが「発達の良さ」ではない
ここで、親にとって最も大切な認識があります。
「ごっこ遊びができる=発達が進んでいる」ではないということです。
象徴遊びは、子どもの発達の一つの側面にすぎません。それができなくても、子どもは別の形で、別の能力を発達させているのです。
親が大切なことは「ごっこ遊びができるかどうか」で子どもを評価するのではなく「その子がどんな遊びを通じて、何を学んでいるのか」という視点を持つことなのです。
療育現場での実例
ある男の子は、4歳になっても、ごっこ遊びをしていませんでした。親は「発達が遅れているのではないか」と心配していました。
しかし、支援者が観察してみると、この子は「レゴブロック」で非常に複雑な構造を作っていました。色の組み合わせにもこだわり、一つの作品に何時間もかけるのです。
親の心配が減り、この子の「構造的思考」「集中力」に焦点が当たると、この子も変わり始めました。その後、親が「一緒にブロックで町を作ろうか」と提案すると、それが徐々に象徴遊び的な要素を含むようになり、やがてごっこ遊びにも発展していったのです。
重要だったのは、ごっこ遊びができるようにさせることではなく「この子の得意な領域を尊重すること」だったのです。
遊びの多様性を認める親になろう
遊びの形は、千差万別です。ごっこ遊びも素晴らしい遊びですが、それが全てではありません。
物を作る遊び、物を観察する遊び、同じ動作を繰り返す遊び——。すべての遊びが、その子の発達に貢献しているのです。
親が大切なことは「その子が何に夢中になっているのか」を見守り、そこに価値を見出すことなのです。その姿勢こそが、親が子どもに与える最高のギフトなのではないでしょうか。