親の「困った」という気持ちが、子どもの行動を変える?〜親のメンタルと子どもの発達の相互関係について〜

子どもの行動は、親の気持ちを反映する——。これは、療育現場で何度も目の当たりにする現象です。親が「この子の行動、困ったな」と心の中で思っていると、その気持ちは、言葉にしなくても、子どもに伝わってしまうのです。結果として、子どもは親の「困った」という気持ちに反応し、その行動をさらに強化してしまうことがあります。
一方、親が「この子の行動には、きっと理由がある」と心に余裕を持つと、その変化は子どもにも伝わり、子どもの行動は改善していくことがあるのです。この記事では、親のメンタルと子どもの発達の深い関係について、詳しく解説します。
親の心理状態が、子どもに与える影響
親の「困った」という気持ちは、無言のうちに伝わる
子どもは、親の表情、声のトーン、体の緊張感などを、敏感に察知します。親が「この行動、困ったな」と心の中で思っていると、その気持ちが言葉にならない形で、子どもに伝わってしまうのです。
このプロセスを「非言語的コミュニケーション」と呼びます。実は、言葉よりも、このような非言語的なメッセージの方が、子どもの心に深く刻み込まれるのです。
子どもが親の「困った」という感情を感じ取ると、子どもは無意識のうちに「親が困ると、親が自分に注目する」という学習をしてしまうのです。結果として、子どもは「困らせる行動」を繰り返すようになってしまう——。これが、悪循環の始まりなのです。
親の不安と、子どもの不安は相互に影響する
親が「この子、大丈夫だろうか」と不安を感じていると、その不安は、子どもにも伝わります。子どもは「親が自分のことで不安になっている」と感じ、結果として「自分は問題のある子なんだ」という認識を持つようになるのです。
この認識が生まれると、子どもは自分自身についての自信を失い、新しい挑戦を避けるようになります。また、子どもも「不安」を感じるようになり、親の不安と子どもの不安が、相互に増幅されていく——。これも、悪循環なのです。
親のストレスは、子どもの行動を「悪化させる」
親がストレスを感じていると、親の対応は、無意識のうちに「厳しく」なります。同じ行動をしていても、親がストレスを感じている日は「怒り」で対応し、心に余裕がある日は「温かく」対応する——。このような対応の一貫性のなさが、子どもに混乱をもたらすのです。
また、親がストレスを感じていると、子どもとの関係を「義務」と感じるようになり、親と子の間に「心理的な距離」が生まれます。この距離が広がれば広がるほど、子どもは親に甘えることができず、親への信頼も低下していくのです。
親のメンタルが安定していることの重要性
では、親のメンタルが安定していると、どのようなことが起こるのでしょうか。
親に心の余裕があると、子どもの行動の「理由」に気づく
親が心に余裕を持っていると、子どもの「困った行動」の背後にある「理由」に気づくようになります。例えば、子どもが夜寝付きが悪いのは「わがまま」ではなく「何か、子どもが抱えている不安がある」かもしれません。
親に心の余裕があると、そのような「気づき」が生まれ、その気づきから、より適切な対応が生まれるのです。
親の落ち着きが、子どもを落ち着かせる
子どもは、親の心理状態を敏感に察知します。親が落ち着いていると、子どもも落ち着くのです。これは、心理学で「情動伝染」と呼ばれる現象です。
子どもが騒いでいるときに、親が「落ち着いて」いると、その親の落ち着きが子どもに伝わり、結果として子どもも落ち着きやすくなるのです。
親と子の信頼関係が強化される
親が心に余裕を持って、子どもに接することで「この親は、自分のことを信頼してくれている」という感覚を、子どもは得ることができます。この信頼感が、その後の親子関係の基盤となり、子どもの安定性につながるのです。
子どもが「安心できる親」と感じることで、親の指示にも従いやすくなり、親の言葉にも耳を傾けやすくなるのです。
「困った」という気持ちから抜け出すために
では、親は「困った」という気持ちから、どのように抜け出せばよいのでしょうか。
子どもの行動の「理由」を探る
まず大切なことは「困った行動の背後にある、子どもの気持ちや理由を探ること」です。
実践のポイント
・「なぜ、この子はこの行動をするのか」と、一度立ち止まって考える
・「子どもが困っている可能性」を考える(親が困っているのではなく、実は子どもが困っているのかもしれない)
・「この行動は、子どもの何らかの欲求の表現なのか」を考える
例えば、子どもが親の注意を引く行動をしている場合、親が「困った」と感じるのは当然ですが、その背後には「親が自分に注目してほしい」という、子どもの欲求があるのかもしれません。
その欲求に気づくことで、親の対応も変わり、子どもの行動も変わっていくのです。
「完璧」を目指さない
多くの親は「子どもをちゃんと育てなくては」というプレッシャーを感じています。このプレッシャーが、親のストレスの大きな原因なのです。
実践のポイント
・「完璧な子育て」は存在しないことを認識する
・「今日、この子に温かく接することができた」というような「小さな成功」を積み重ねることを大事にする
・自分が親として「完璧でなくてもいい」という許容を自分に与える
親が「完璧を目指さない」という心構えを持つだけで、ストレスは大きく軽減されるのです。
自分のメンタルヘルスを優先する
親が自分のメンタルを整えることは「子どもを無視する」ことではなく「子どものためになる」ことなのです。
実践のポイント
・自分が疲れていると感じたら、意識的に休息を取る
・子ども以外の「自分の時間」を意識的に作る
・親自身が「自分を大事にされている」と感じることの大切さを認識する
・必要に応じて、療育士や心理士などのプロに相談する
親が自分のメンタルを大事にすることで、初めて、子どもに心の余裕を持って接することができるのです。
親が「この子の行動にも理由がある」と考える
これは、親の「見方」を変えるプロセスです。
実践のポイント
・子どもの「困った行動」を「問題行動」ではなく「信号」と見なす
・「この行動は、この子が何かを伝えようとしているのかな」と考える
・「この子は、これをどうしてするんだろう」と、好奇心を持ってその行動を観察する
この見方の変化が、親の心理状態を大きく変え、結果として、親の対応も変わり、子どもの行動も変わっていくのです。
実際の場面での対応例
【場面1】親が「困ったな」と感じている日の子どもの行動が、いつもより悪い場合
❌親が無意識にやってしまうこと:「今日は何で、こんなに落ち着きがないの?」と、イライラして接する。その結果、子どもは親の不機嫌さを感じ、さらに行動が悪くなる
✅親が意識的にやること:「あ、今日は自分がストレスを感じているんだ。だから、子どもに対して、厳しくなっちゃっているんだ」と気づく。その気づきから、自分の気持ちをリセットする。深呼吸をして、心を落ち着ける。そのうえで、子どもに接する
親のポイント
・親自身の心理状態を「観察する」という習慣をつける
・親のメンタルが子どもに影響することを認識する
・親自身のストレスマネジメントを優先する
【場面2】子どもが「困った行動」を繰り返している場合
❌親の悪い対応:「何で、毎回同じことをするの。学習しなさい」と責める
✅親の良い対応:「この子は、毎回この行動をする理由があるんだ。それは何だろう」と、好奇心を持って観察する。その結果「あ、この子は、この時間に親の注目を引きたいんだ」と気づく。その気づきから「では、その時間に、親が意識的にこの子と関わる時間を作ろう」と対応を変える
親のポイント
・子どもの行動を「責める」のではなく「理解しようとする」
・「困った行動」の背後にある、子どもの欲求を探る
・その欲求に応じた、親の対応を変える
【場面3】親のストレスが溜まり、親が疲弊している場合
❌親が無意識にやってしまうこと:「頑張らなくてはいけない」と、さらに無理をして、疲弊を深める
✅親が意識的にやること:「今、自分は疲弊している。子どものためにも、親である自分を大事にしよう」と決断する。その日は、子どもにテレビを見させて、親が休息を取る。または、祖父母や友人に、子どもを見てもらう時間を作る
親のポイント
・親が疲弊することは「子どもにとってマイナス」であることを認識する
・親が「自分を大事にすること」が「子どもを大事にすること」とつながっていることを理解する
・親自身が「完璧である必要がない」ことを認識する
親のメンタルと子どもの発達は、一方通行ではない
ここで、大切な認識があります。
「親が子どもに与える影響」だけが、あるのではなく「子どもも、親のメンタルに影響を与えている」ということです。
例えば、子どもが親の話を聞いて「この親の話は大事だ」という顔をしていれば、親は「この話を聞いてくれたんだ」と感じ、親のモチベーションが上がります。逆に、子どもが「つまらなそう」という顔をしていれば、親は「ちゃんと伝わっていないのかな」と感じ、親のモチベーションが下がります。
このように、親と子は「相互に影響を与え合う」関係なのです。
大切なのは「親が一方的に子どもを変えようとする」のではなく「親と子が一緒に、相互に影響を与え合いながら、成長していく」というプロセスを理解することなのです。
療育現場での実例
ある母親は「子どもが、毎日同じことばかりして、融通がきかない」と困っていました。また「自分の育て方が悪かったのではないか」と自分を責め、ストレスを感じていました。
その母親が、親のためのカウンセリングを受け「完璧を目指さなくてもいい」「子どもの『困った行動』の背後には、理由がある」という視点を得ると、母親のストレスが減少しました。
ストレスが減ると、母親は「なぜ、うちの子は同じことばかりするんだろう」と、好奇心を持って子どもを観察するようになりました。その結果「あ、この子は、ルーティンを通じて、自分の心を落ち着かせているんだ」と気づいたのです。
その気づきから、母親は「この子のルーティンを、尊重しよう」と決断しました。結果として、母親のストレスは減り、母親に心の余裕が出ました。その母親の変化は、子どもにも伝わり、子どもも落ち着きを取り戻したのです。
重要だったのは、子どもの行動を「変えようとすること」ではなく「親のメンタルを整えること」だったのです。
親と子は、相互に支え合う存在
親が子どもに与える影響は、非常に大きいです。しかし同時に、子どもも親に大きな影響を与えているのです。
親が「この子の行動を変えなくてはいけない」というプレッシャーから解放されると、親は子どもをより温かく見つめることができます。親がそのように変わると、子どもも親の気持ちの変化を感じ取り、子どもも変わっていくのです。
このプロセスは「親が一方的に子どもを育てている」のではなく「親と子が、相互に影響を与え合いながら、一緒に成長していく」というものなのです。
親が「困った」と感じたときは、それは「親のメンタルの信号」かもしれません。その信号に気づき、親が自分を大事にする。その行動が、実は「子どものためになる」最高の親の行動なのです。
今日も、親と子は、相互に支え合いながら、一緒に歩んでいきましょう。