子どもの「できた!」という小さな喜びを、親はどう受け止めるべき? 〜親の「褒め方」が子どもの自信を育む仕組み〜

子どもが何かができたとき、親は「良かったね」と褒めます。これは、多くの親が自然にしている行動です。しかし、実は「褒め方」には、大きな個人差があり、その褒め方が子どもの自信の育ち方に大きな影響を与えるのです。
同じ「できた」という出来事でも、親の受け止め方によって、子どもが学ぶことは全く異なるのです。親が「わあ、すごい!」と大げさに褒める場合と、子どもの工夫に焦点を当てて「そこまで工夫したんだ」と褒める場合では、子どもの心に残るメッセージが異なるのです。この記事では、子どもの「できた!」という喜びを、親がどのように受け止めるべきなのか、そして、その受け止め方が子どもにもたらす影響について、詳しく解説します。
親の褒め方が、子どもの自信を育む理由
親からの評価が、子どもの自己認識を形作る
子どもは、特に幼い時期には、親からどのように見られているかによって、自分自身のことを理解します。例えば、親が「あなたは頭がいい子ね」と繰り返し言っていれば、子どもは「自分は頭がいい」という認識を持つようになります。逆に「あなたは不器用だね」と言われ続けていれば、子どもは「自分は不器用」という認識を持つようになるのです。
つまり、親の褒め方(または評価の方法)が、子どもの自己認識をどんどん形作っていくのです。これを心理学では「ラベリング効果」と呼びます。
親からの褒めが、子どもの「頑張る力」を育む
子どもが何かをした後に、親が「良かったね」と褒めてくれると、子どもの脳には「ドーパミン」というホルモンが分泌されます。このホルモンは「喜びと報酬」をもたらし、その結果、子どもは「また頑張ろう」という気持ちになるのです。
つまり、親の褒めが、子どもの「内的動機付け」を育むのです。外から与えられた「報酬」(お金やお菓子など)ではなく、親からの褒めが、子ども自身の「やりたい」という気持ちを引き出すのです。
褒め方によって「自信の質」が変わる
しかし、重要なのは「褒めるかどうか」ではなく「どのように褒めるか」なのです。親の褒め方によって、子どもが育む「自信」の質が変わるのです。
例えば、子どもが絵を描いて「見てみて!」と親に見せたとき、親が「わあ、天才だ!」と褒めるのと、「この色の選び方、素敵だね。どうしてこの色を選んだの?」と子どもの工夫に焦点を当てるのでは、子どもが学ぶことが異なるのです。
前者の褒め方は「子どもの才能」に焦点を当て、後者の褒め方は「子どもの努力や工夫」に焦点を当てています。この違いが、子どもの自信の育ち方に、大きな違いをもたらすのです。
効果的な褒め方——「能力」ではなく「プロセス」を褒める
スタンフォード大学の心理学者キャロル・ドゥエックが提唱した「マインドセット理論」によると、子どもに対する褒め方には、大きく2つの種類があります。
「固定的マインドセット」を育む褒め方
「あなたは頭がいいね」「あなたは才能がある」といった、子どもの「能力」や「才能」を褒える方法です。
一見すると、これは良いように思えるかもしれません。しかし、この褒め方には、大きな落とし穴があるのです。
この褒め方を受けた子どもは、やがて「失敗を恐れる」ようになります。なぜなら「自分は才能がある子」という評価を守りたくて、「挑戦して失敗して、才能がないと思われるのが怖い」という心理が生まれるからです。
結果として、子どもは「難しいことに挑戦する」ことを避けるようになり、自分の能力の範囲内のことばかりをするようになるのです。
「成長的マインドセット」を育む褒め方
「その努力の工夫が良かったね」「そこまで頑張ったんだ」といった、子どもの「プロセス(過程)」や「努力」を褒える方法です。
この褒め方を受けた子どもは「失敗も、学びの過程」と考えるようになります。「失敗した=自分の能力がない」ではなく「失敗した=別のやり方を試す機会」と認識するようになるのです。
結果として、子どもは「難しいことに挑戦する」ことを恐れなくなり、自分の能力を広げていくことができるようになるのです。
子どもの「できた!」を受け止める具体的な方法
具体的な行動や工夫に焦点を当てる
子どもが「できた!」と喜んでいるとき、親は「なぜ、できたのか」という「プロセス」に着目することが大切です。
実践のポイント
- 「上手にできたね」ではなく「最後まで諦めなかったね」と、努力に焦点を当てる
- 「頭がいいね」ではなく「そこまで工夫したんだ」と、工夫に焦点を当てる
- 「得意だね」ではなく「毎日練習しているから、できるようになったんだね」と、努力に焦点を当てる
このように「プロセス」に焦点を当てることで、子どもは「成功は、能力ではなく、努力と工夫の結果」という認識を持つようになるのです。
子ども自身に「どうやってできたのか」を考えさせる
親が褒めるだけでなく、子ども自身に「どのようにしてできたのか」を考えさせることも、非常に効果的です。
実践のポイント
- 「できたね。どのようにして、できたと思う?」と問いかける
- 「苦手だったけど、どうやって乗り越えたの?」と、子どものプロセスを言語化させる
- 「今、どんな気持ち?」と、子どもの内面的な体験を引き出す
子ども自身が「自分がしたことを言語化する」ことで、その経験が、より深く子どもの脳に定着するのです。
親の「喜び」の表現を工夫する
親の褒め方は「言葉」だけではなく、親の「表現」や「態度」も含まれます。
実践のポイント
- 親自身が「嬉しい」という気持ちを、素直に表現する
- 大げさに褒めるのではなく「この子が工夫した、その工夫に親も嬉しい」という感覚を伝える
- 子どもの「できた」を、一緒に喜ぶ(親が子どもに喜びを「与える」のではなく「一緒に喜ぶ」という感覚)
親が素直に喜ぶ姿勢が、子どもに「親が自分のことを信頼している」という感覚をもたらすのです。
失敗を「学びの機会」として捉える親の姿勢
褒め方と同じくらい大切なのが「失敗への対応」です。親が失敗に対して、どのように対応するかが、子どもの「挑戦心」を育むことにつながるのです。
実践のポイント
- 「できなかった」ことを責めるのではなく「どうすれば、うまくいくと思う?」と、次への工夫を考えさせる
- 失敗を「悪いこと」ではなく「学びの過程」と、親自身が認識する
- 親が「失敗している大人の姿勢」を、子どもに見せる(親も失敗を恐れず、挑戦している姿を見せる)
親が失敗を「学びの機会」と捉えることで、子どもも同じように考えるようになるのです。
実際の場面での対応例
【場面1】子どもが初めて字を書けた場合
❌親の悪い対応: 「わあ、天才だ!字がきれいに書けたね」と、才能を褒める
✅親の良い対応: 「最後まで集中して、丁寧に書いたんだね。どうやって、こんなに上手に書けたの?」と、プロセスと努力を褒め、子ども自身の工夫を引き出す
親のポイント
- 能力ではなく、プロセスを褒める
- 子どもの「工夫」に焦点を当てる
- 子ども自身が「自分の工夫」を認識させる
【場面2】子どもが何度も失敗した後に、成功した場合
❌親の悪い対応: 「やっと成功した。やればできるじゃない」と、暗に「今までできなかったのが悪い」というメッセージを伝える
✅親の良い対応: 「何度も挑戦して、今回成功したんだ。その工夫が良かったんだね。どの工夫が良かったと思う?」と、失敗から成功に至るプロセス全体に焦点を当てる
親のポイント
- 失敗も含めた、全体のプロセスを認める
- 失敗は「悪い」のではなく「学びの過程」と伝える
- 子どもが「次への工夫」を考えるように促す
【場面3】子どもが「得意」と「不得意」を混同している場合
❌親の悪い対応: 「あなたは運動が得意だから、勉強ができなくてもいいんだよ」と、「得意・不得意」の固定化を促す
✅親の良い対応: 「運動では、毎日の練習で力がついたんだね。勉強も、同じように毎日の工夫で、力がつくかもしれないね」と、「成長は努力の結果」というメッセージを伝える
親のポイント
- 「得意・不得意」は「固定的」ではなく「努力による変化がある」というメッセージを伝える
- 全ての領域で「成長の可能性がある」という、希望のメッセージを伝える
褒められることで、子どもが学ぶこと
子ども自身がしたことに「価値がある」という認識
親から褒められることで、子どもは「自分がしたことは価値がある」と認識するようになります。この認識が、子どもの自己肯定感を育むのです。
失敗も含めた、すべての経験に「学びがある」という認識
親が「プロセス」を褒めることで、子どもは「失敗も含めた、すべての経験に学びがある」と認識するようになります。この認識が、子どもの「学習意欲」を育むのです。
親が「自分の成長を応援してくれている」という信頼感
親から褒められることで、子どもは「親が自分の成長を応援してくれている」と感じ、親への信頼感が育まれるのです。この信頼感が、親子関係の基盤となるのです。
療育現場での実例
ある女の子は「自分は、何もできない子」という自己認識を持っていました。親が「できない、できない」と繰り返し言っていたからです。
その親が「褒め方」の研修を受け、子どもの「プロセス」に焦点を当てて褒めることを始めました。例えば、絵を描いたとき「頭がいいね」ではなく「この色合い、自分で工夫したんだね」と褒めるようになったのです。
数ヶ月後、女の子の自己認識が変わり始めました。「自分は、工夫できる子」「失敗しても、別のやり方を試せる子」という認識が育ち始めたのです。
結果として、女の子は「新しいことに挑戦する」ことを恐れなくなり、自分の能力を広げていくことができるようになったのです。
重要だったのは「褒める量」ではなく「褒め方の質」だったのです。
親の褒め方は、子どもの人生の基盤を作る
子どもが「できた!」と喜ぶその瞬間は、単なる「成功」ではなく「子どもが自分自身についての認識を形作る時間」なのです。
その時間に、親が「能力」を褒めるのか「プロセス」を褒めるのか——。その選択が、子どもが将来「難しいことに挑戦できる子」になるのか「失敗を恐れる子」になるのかを、大きく左右するのです。
親の褒め方は「子育ての小さな行動」のように見えるかもしれません。しかし、その小さな行動の積み重ねが、子どもの「人生の基盤」を作っているのです。
今日も、子どもの「できた!」という喜びを、親が心を込めて受け止めることで、子どもは「自分は成長できる子」という認識を、少しずつ育んでいくのです。