子どもが「できない」と言う前に、親が制限していないか?〜子どもの「やってみたい」という欲求と、親の過保護のバランス〜

「ママ、やりたい!」と子どもが声をあげた時、親は何をするでしょうか。多くの親は「まだ、その子には早い」「危ないからダメ」と、子どもの挑戦を制限してしまいます。
しかし、実は子どもが「できない」と言う前に「親が制限してしまう」ことで、子どもは「自分で試す機会」を失い続けているのです。親の「保護」と「制限」のバランスが、子どもの「挑戦心」と「自信」を大きく左右します。親が、どのように子どもの「やってみたい」という欲求に向き合うべきなのか、一緒に考えていきましょう。
親が「制限」してしまう理由
安全への懸念が、最優先になっている
親が子どもの行動を制限する最大の理由は「安全」です。ハサミを持たせるのは「危ない」、高いところに登るのは「落ちるかもしれない」——。親の「安全への不安」は、非常に強く、そしてもっともなものです。
この不安は「親の愛情の表れ」であり「間違いではない」のですが、この不安が「過度」になると「子どもの挑戦機会」を奪い続けてしまうという現実があります。
親自身の「失敗への恐れ」が、隠れている
親が子どもの挑戦を制限する理由の一つに「もし、子どもが失敗したら、それは親の責任だ」という「親自身の不安」があります。
親は「子どもが失敗しないようにしよう」と考え、その結果「試させない」という対応をしてしまいます。実は、この親の不安こそが「子どもの成長を止めている」かもしれません。
「時間がない」という現実的な課題
親が忙しい時「子ども自身がやるより、親がやった方が早い」という理由で、子どもの挑戦を制限することもあります。
朝の支度で「自分で靴を履くより、親が履かせた方が早い」という現実が「子どもの挑戦機会を奪う」という、難しい葛藤が生まれるのです。
「親の価値観」が、子どもの行動を制限する
親が「完璧に、きれいに」という価値観を持っていると「子どもが試行錯誤する過程」が「許せない」という感覚が生まれます。
「汚れるから」「失敗するから」という親の価値観が「やらせない」という制限につながるのです。
親の「過度な制限」が、子どもに与える影響
では、親が過度に「制限」することで、子どもにはどのような影響が出てくるのでしょうか。
「自分にはできる」という感覚が、失われていく
子どもが「やってみたい」と思った時に、繰り返し「ダメ」と言われると「自分にはできない」という認識が、子どもの中に根付いていきます。
心理学では「学習性無力感」という現象があります。繰り返し失敗させられたり、制限されたりすると「どうせ、自分はできない」という感覚が固定化してしまうのです。
新しいことへの「挑戦心」が、少しずつ消えていく
繰り返し制限されると「新しいことに挑戦する」ということ自体を、子どもは避けるようになります。
「どうせ、親に止められるし」「自分にはできないんだ」という諦めが、子どもの心に静かに広がっていきます。
「親に頼る」という習慣が、強化されていく
親が「子どもの代わりに、やってあげる」という対応を繰り返すと「自分でやることができない」という習慣が、子どもの中に形成されていきます。
結果として「困ったら親に頼る」「親が代わりにやってくれるのが当たり前」という関係が、固定化してしまうのです。
「失敗からの学び」が、子どもから奪われている
子どもが「試行錯誤する」という経験の中で「失敗から学ぶ」ことができます。しかし、親が「試させない」という制限をすると「失敗を経験する」という機会そのものが失われてしまいます。
「やってみたい」という欲求に、親がどう向き合うか
では、親は子どもの「やってみたい」という欲求に、どのように対応していくといいのでしょうか。
「危険」と「失敗」は、全く別ものと考える
最初に大切なのは「危険」と「失敗」を、きっちり区別することです。
危険とは: 子どもの「生命が脅かされる」可能性のあるもの。例えば、走行中の道路に飛び出す、高い崖から落ちる可能性がある行動など
失敗とは: 子どもが「やってみたが、うまくいかない」という経験。例えば、ハサミで紙を切るのが上手でない、砂で物を作るのに失敗する、料理で卵を割る時に殻が入ってしまう、など
親は「危険」は制限すべきですが「失敗」は「学習の機会」として、許容していく勇気が必要です。
「親がサポートできる環境」を作った上で、挑戦させる
子どもが「やってみたい」と言った時「それを安全にサポートできる環境」を親が先に作ってあげることが大切です。
実践のポイント
- ハサミを持ちたいなら「親が見守る環境」で試させる
- 高い所に登りたいなら「クッションを用意した上で」試させる
- 料理をしたいなら「親が一緒に参加」させながら、子どもにやらせる
このように「親がサポートする」という前提で「子どもに挑戦させる」ことが、親と子どもの間での最適なバランスを生み出していきます。
「時間がない」を理由に、親が代わりにやるのを避ける
朝の支度で「時間がない」という理由で「親が代わりにやる」ことは、その時は「効率的」に見えるかもしれません。しかし「長期的には」子どもの「自立心」を阻害してしまうという大きな代償があります。
実践のポイント
- 朝は「少し早く起きる」という時間管理で対応する
- 子どもが「自分でやる時間」を意識的に確保する
- 時には「遅刻してでも、子どもが自分でやるプロセス」を経験させることも大切
短期的な効率よりも「長期的な子どもの発達」を優先することが、親の重要な役割だと考えられます。
「失敗した時」に、親がどう応じるかが全てを決める
子どもが挑戦して「失敗した」時に、親の対応が非常に重要です。ここが「子どもの挑戦心を育てるか、それとも潰すか」の分岐点になります。
実践のポイント
- 失敗を「責めない」。「何やってるの」と怒らない
- 「失敗は、学びの過程」という親の認識を、態度で示す
- 「どうすれば、うまくいくと思う?」と、子ども自身に考えさせる
- 失敗の中に「親が認められること」を見つけ「〇〇が上手だったね」と褒める
親が失敗を「学習の機会」として受け入れることで「子どもも『失敗は悪くない』という認識を持つ」ようになっていきます。
親の「完璧さへのこだわり」を、少しずつ手放す
親が「完璧に、きれいに」という価値観に強くこだわっていると「子どもの試行錯誤を許容できない」という状況が生まれます。
実践のポイント
- 「汚れることは、子どもが活動している証」だと考える
- 「失敗すること」を、親自身が許容する練習をする
- 親の価値観よりも「子どもの『やってみたい』という欲求」を優先させる
親が「完璧さを手放す」勇気を持つことで「子どもの挑戦が許容される環境」が、やっと生まれていきます。
実際の場面での対応例
【場面1】子どもが「ハサミで切りたい」と言う場合
❌親の悪い対応: 「危ないから、ダメ。ママが切ってあげるね」と、子どもの挑戦を即座に制限する
✅親の良い対応: 「ハサミで切りたいんだ。では、ママが見ているから、一緒にやってみようか。まずは、安全な持ち方を教えるね」と、親がサポートしながら、試させる
親のポイント
- 「危ない」という理由で一概に制限しない
- 親がサポートすることで「安全」を確保しながら、挑戦させる
- 子どものスキルが発達する過程を、温かく見守る
【場面2】朝の支度で「自分で靴を履きたい」と言うが、時間がない場合
❌親の悪い対応: 「時間がないから、ママが履かせてあげるね」と、親が代わりにやる
✅親の良い対応: 「自分で履きたいんだね。では、少し早く起きようか。〇時には家を出るから、それまでに準備しようね」と、子どもが自分でやる時間を確保する
親のポイント
- 短期的な効率より「長期的な自立心の発達」を優先する
- 親が「時間管理」を工夫することで「機会」を作る
- 時には「朝、少し遅れてでも、子どもが自分でやるプロセス」を経験させることも視野に
【場面3】子どもが料理を「手伝いたい」と言うが、汚れるのが心配な場合
❌親の悪い対応: 「汚れるから、あっち行ってて」と、子どもを遠ざける
✅親の良い対応: 「一緒に料理しようか。汚れるけど、それは大丈夫。後で一緒に片付けようね」と、親が「汚れることを許容」した上で、参加させる
親のポイント
- 汚れることは「子どもが活動している証」と捉える
- 親が「完璧さ」を手放す勇気を持つ
- 失敗や汚れも含めた「プロセス全体」を大事にする
【場面4】子どもが失敗した場合
❌親の悪い対応: 「見たでしょ。こうやるんだよ」と、失敗を責め、親が正解を示す
✅親の良い対応: 「あ、うまくいかなかったね。どうしたと思う?次は、どうしてみようか?」と、子どもに「失敗から学ぶ」機会を与える
親のポイント
- 失敗は「学びの機会」と捉える
- 子ども自身に「原因」と「改善策」を考えさせる
- 親が「すぐに正解」を示さないという忍耐を持つ
「親の制限」が生み出す、親子関係の問題
実は、親の過度な「制限」は「子どもの発達」だけでなく「親子関係そのもの」にも大きな影響を与えていきます。
子どもは「親の制限」に対して「反発」するようになります。そして「親は自分のことを信頼していない」「親は自分を縛っている」というメッセージを、子どもは受け取るようになるのです。
結果として「親への信頼が低下」し「親からの指示に従いにくくなる」という逆説的な現象が起こります。これは「親が子どもを『守ろう』と思った行動が、実は親子関係を壊している」という悲しい現実なのです。
一方、親が「子どもを信頼し、機会を与える」という選択をすると「子どもも親を信頼し、親の言葉に耳を傾ける」という良い循環が生まれていきます。
「親の過保護」と「親の適切なサポート」の違い
ここで、重要な区別があります。
過保護: 親が「子どもの代わりにやる」「子どもに機会を与えない」という対応
適切なサポート: 親が「見守りながら、子どもが試行錯誤する環境を作る」という対応
親の役割は「子どもを保護する」ことではなく「子どもが安全に挑戦できる環境を作ること」だと、改めて考えてみるといいかもしれません。
療育現場での実例
ある保護者は「子どもが『やりたい』と言ったことに対して、常に『ダメ』と言い続けていた」と、スタッフに話してくれました。結果として、子どもは『何をやってもダメなんだ』という認識を深め、新しいことに挑戦することを完全に避けるようになってしまっていました。
その保護者が「『やってみたい』という欲求を尊重する」という対応に切り替えると「子どもは『親は、自分のことを信頼してくれているんだ』と感じるようになり」「少しずつ挑戦するようになった」のです。
数ヶ月経つと、子どもの自信が育ち、親子の信頼関係も目に見えて深まっていきました。
重要だったのは「親の『制限』を減らし、『機会』を増やす」という親の意識転換だったのだと思います。
「やってみたい」という欲求は、子どもの最大の資産
子どもが「やってみたい」と言う欲求は「子どもの最大の資産」です。その欲求の中に「好奇心」「学習意欲」「自立心」が全て詰まっているのです。
親がそれを「制限」することで「子どもから、その資産を奪っている」ことになってしまいます。逆に、親がそれを「受け止め、機会を与え、見守る」という姿勢を持つことで「子どもの内的な力は、どんどん育まれていく」という関係が生まれます。
親が「今、時間がない」「今、完璧ではない」という状況を受け入れ「子どもの『やってみたい』を優先させる」。その選択が、実は「子どもの人生に、最も価値のある贈り物」になるということに、親は気づくことができるといいなと思います。
今日も、子どもが「やってみたい!」と言った時「親がそれを受け止める勇気」が、子どもの人生を、大きく左右する大切な瞬間になっているのです。