指示が通らないのは“聞いてない”からじゃない! 聴覚情報処理の苦手さと支援の工夫

「何度言っても聞いていない…」
「話をしても、返事だけで全然伝わっていない気がする…」
「『聞いてなかったの?』とつい怒ってしまう…」
日常の子育てや支援の場面で、子どもに指示が伝わらないと感じた経験、ありませんか?
でも、実はそれ、「聞いていない」のではなく、「聞こえてはいるけれど、意味として処理できていない」ことが原因かもしれません。
今回は、「聴覚情報処理」の視点から、子どもたちの“指示が通らない”背景と、できる支援の工夫についてお伝えします。
聴覚情報処理ってなに?
「聴覚情報処理(Auditory Processing)」とは、耳から入ってきた音を「意味ある情報」として理解し、記憶し、活用するための脳の働きです。
単に「音が聞こえるかどうか」ではなく、以下のような力が関わっています。
- 音を聞き分ける(弁別)
- 必要な音だけを選んで聞く(選択的注意)
- 複数の音を同時に処理する(統合)
- 一時的に記憶して行動につなげる(ワーキングメモリ)
- 話の全体の流れや文脈を理解する(言語理解)
このうちどこかに弱さがあると、「聞こえているけど意味が分からない」「聞き取れているつもりが違っていた」などの“聴覚の情報処理のつまずき”が起こります。
子どもに見られる聴覚情報処理の苦手さのサイン
聴覚情報処理の課題を持つ子どもに見られやすい特徴には、次のようなものがあります。
☑ 名前を呼ばれても反応が遅い・ない
☑ 話の途中で注意がそれる/ぼーっとする
☑ 集団での指示が通りにくい
☑ 指示を聞いても、内容をすぐに忘れる
☑ 騒がしい場所では特に話を理解しづらい
☑ 聞き間違いや、話の一部だけ覚えていることが多い
これらは一見「集中していない」「怠けている」ようにも見えるかもしれませんが、本人の努力ではどうにもならない脳の処理の難しさが背景にあることがあります。
ASD・ADHD・DCDの子どもにも多く見られる
聴覚情報処理の課題は、発達障害の診断に関係なく現れることがありますが、特に以下の傾向のある子どもによく見られます。
- 自閉スペクトラム症(ASD):言葉の意味のとらえ方が独特で、言葉をそのまま受け取る傾向がある
- 注意欠如・多動症(ADHD):話の途中で注意がそれたり、聞いた内容を保持するのが苦手
- 発達性協調運動障害(DCD):聴覚処理と身体の動きを連動させることが難しい場合がある
“聴覚過敏”のある子も、音の刺激に圧倒されやすく、「聞く」「理解する」という情報処理に負荷がかかる傾向があります。
支援の工夫①:伝え方を工夫する
✔ 視覚情報を活用する
言葉だけではなく、絵カードやジェスチャー、実物を見せながら伝えると、理解がしやすくなります。
✔ 短く、明確に伝える
「〇〇して、××して、それから…」と長くならず、1文1指示を意識しましょう。できれば順番を番号で伝えるのも効果的です。
✔ 名前を呼んでから、話す
「〇〇くん、今から大事なこと言うよ」と前置きをすることで、注意を向けやすくなります。
✔ 雑音を減らす・静かな環境で話す
テレビや話し声がある中では聞き取りにくくなるので、話すときはできるだけシンプルな環境に。
✔ 復唱・確認する
「今、何て言ったか教えてくれる?」と復唱してもらうことで、理解度を確認できます。
支援の工夫②:環境の中で“見える化”する
✔ スケジュールをホワイトボードで可視化
口頭での説明だけでなく、予定を文字や絵で「見える形」にしておくと、記憶を補いやすくなります。
✔ ルールややることを“常に表示”しておく
やって欲しい行動を張り紙などで常に目に入るようにすると、いちいち口頭で伝えなくても行動が安定します。
✔ 静かな空間で“音”に集中できる時間を作る
聴覚トレーニングや「音に耳を傾ける」遊びも効果的。音探しゲーム、音の順番記憶などもおすすめです。
まとめ:聞こえている≠理解できている
「聞こえているのに反応がない」と感じると、「ちゃんと聞いて!」と言いたくなる気持ち、よく分かります。
でも子どもたちは「わかりたい」「できるようになりたい」と思っていることがほとんど。
その前提に立つことで、伝え方や環境を少し工夫するだけで、ぐっと理解しやすくなることがあります。
☑ 聴覚処理の課題は“見えにくい困難”
☑ 叱るより「どうしたら伝わるか?」を考える
☑ 視覚・身体感覚・環境支援でサポートする
「聞ける環境」と「分かる伝え方」は、子どもの安心と自信につながります。
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