「ちゃんとしつけてますか?」——発達特性と“しつけ”のすれ違いを超えて

こんにちは。
今回は、子育ての中でも特につらく感じやすいテーマ、「しつけ」について考えていきます。
スーパーや公園、公共交通機関の中などで、思うように動けなかったり、声を出してしまったりする子どもに対して——
「親がちゃんとしつけていないんじゃない?」
そんな無言の視線や言葉に、心を痛めた経験はありませんか?
発達に特性のある子どもにとって、「一般的なしつけ」がうまく機能しないことはよくあることです。
けれどそれは、親の責任ではなく、「アプローチの工夫」が必要なだけ。今回は、“しつけ”と“発達特性”をめぐる誤解と、そこから抜け出すための視点を丁寧に解説します。
第1章 「しつけ=言うことをきかせる」ではない
多くの人が「しつけ」と聞くと、「礼儀正しく」「ルールを守り」「大人の指示に従う」といったイメージを思い浮かべるかもしれません。
しかし、現代の発達心理学や教育学では、“しつけ”の本質は、「子どもが自分で考え、行動を調整できる力(自己調整力)を育てること」とされています。
つまり、「従わせる」ことではなく、「育てる」こと。
そのためには、子どもの発達段階や特性を理解し、成長に応じたアプローチが必要なのです。
第2章 発達特性がある子にとって、“しつけ”が難しくなる3つの理由
(1)言葉の指示が入りづらい
ADHDや自閉スペクトラム症(ASD)の傾向がある子どもは、耳からの情報処理が苦手な場合があります。
「静かにして」「座ってて」といった言葉が、頭に入る前に行動が先に出てしまうのです。
✅ 解決のヒント
言葉だけでなく、視覚的な合図(絵カード、ジェスチャー)や、見通しを伝える工夫(タイマー、スケジュール)を取り入れましょう。
(2)感覚過敏や感情の調整が難しい
大きな音、人の多さ、服の感触など、感覚が過敏な子どもは、それだけで強いストレスを感じます。
その結果、パニックやかんしゃくにつながりやすく、「わがまま」と誤解されがちです。
✅ 解決のヒント
「困った行動」の背景に、「困っている感覚」がないか探ってみましょう。
落ち着ける環境づくり(イヤーマフ、静かなスペースの確保など)が鍵になります。
(3)失敗体験の積み重ねで自己肯定感が下がっている
指示に従えない→叱られる→自信を失う、という悪循環が続くと、「どうせまた怒られる」と感じ、チャレンジする意欲が下がってしまいます。
✅ 解決のヒント
成功体験を積み重ねるために、「できたこと」に注目し、小さな変化をほめるようにしましょう。
“できて当たり前”ではなく、“昨日より一歩前進”を大切にする視点が必要です。
第3章 “しつけ”を家庭と社会で支えるには
◎ 親は「できていない」と思いすぎなくていい
「何度言ってもできない」「こんなに頑張っているのに」と感じたとき、親が一番苦しんでいます。
でも、“今できないこと”が、“ずっとできないこと”ではありません。
発達とは、個人のペースとタイミングで積み上がっていくもの。親のせいでも、子どものせいでもありません。
◎ 社会も「見えない特性」を理解する時代へ
近年、発達障害やグレーゾーンの理解は進んできています。
一部の自治体では、「発達特性を理解するカード」や「支援者マーク」など、周囲への配慮を促す仕組みも登場しています。
社会全体が、「この子の行動には理由がある」と考えられるようになれば、保護者の心理的負担もぐっと軽くなるでしょう。
◎ 周囲への伝え方を持っておくと心強い
家族や保育園・幼稚園、親戚などに、「わかってもらえない」と感じることもあるかもしれません。
そんなときは、「この子は、こういうときに困りやすいんです」「こうすると落ち着くんです」と、具体的な例や支援方法を交えて伝えると、理解が得られやすくなります。
最後に:しつけと支援は、どちらも「信じて待つこと」
「しつけ」とは、ルールを守らせることではなく、
「育つ力を信じて待つ」こと。
特性のある子どもにとって、「怒られずにできた経験」「自分で気づけた経験」が、心の成長にとって一番の栄養になります。
親も、子どもも、失敗していい。
大切なのは、「うまくいかなかったとき、どう支えるか」。
今日の困りごとは、明日の成長のタネになるかもしれません