習い事をやめたいと言う子どもに、保護者は何を問いかけるべき?〜子どもの「本当の気持ち」を引き出す対話方法と、保護者の「させたい」との向き合い方〜

子どもが突然、習い事をやめたいと言い出した時、保護者の反応はどのようなものになるでしょうか。多くの保護者は「また始めたばかりなのに」「もう少し続けてみたら」と、子どもを説得しようとするかもしれません。あるいは「お金を払っているのに」というような親の事情を、子どもに説いてしまうこともあるでしょう。
しかし、実は子どもが習い事をやめたいと言った時、その言葉の背景には「何か理由がある」ということなんです。その理由を丁寧に聞き出し、子どもの本当の気持ちを理解すること。そして、その上で「続けるか、やめるか」を一緒に判断すること。このプロセスを通じて、子どもは「自分の気持ちは大事にされている」という感覚を獲得していくのです。
子どもが習い事をやめたいと言う理由
つらい、苦しいという感情
子どもが習い事をやめたいと言う理由の一つが「つらい」「苦しい」という感情です。練習が厳しい、先生が怖い、頑張ってもできないという経験が積み重なると「習い事に行きたくない」という気持ちが強くなっていきます。
この場合、子どもは「頑張ることの大切さ」よりも「心が疲れている」という状態にあるかもしれません。
興味の変化
子どもが習い事を始めた当時は興味があったけれど、時間とともに「別にやりたいことが見つかった」という場合もあります。
子どもの興味は流動的であり「この興味の変化は自然なこと」と認識することが大切なんです。
友達関係の問題
習い事の教室の中での友達関係が上手くいっていない場合、子どもは習い事そのものをやめたくなることがあります。
実は「習い事の内容が嫌」なのではなく「その環境にいるのが嫌」という可能性も考えられるのです。
親の期待がプレッシャーになっている
保護者が「〇〇ちゃんは運動が得意だから、スポーツを続けなさい」というようなプレッシャーを、子どもに与えていないか。あるいは「兄が習っているから、妹も習うべき」というような、子ども自身の意思ではない期待を押し付けていないか。
こうした親の期待が、子どもの心に負担を与え「やめたい」という気持ちにつながっていることもあるんです。
成長に伴う「新しい挑戦」への興味
子どもが成長するにつれ「新しいことに挑戦したい」「別の経験をしたい」という欲求が生まれることがあります。
この場合「習い事をやめたい」というのは「新しい段階へ進みたい」というサインかもしれません。
保護者が陥りやすい「反応」
「お金がもったいない」という経済的な理由を持ち出す
習い事をやめたいと言う子どもに対して「月謝を払っているのに」「もう少し続ければ元が取れるのに」というような経済的な理由を持ち出す保護者は多いです。
しかし、この言い方は、子どもに「親のお金が大切」「自分の気持ちよりもお金の方が大事」というメッセージを与えてしまうのです。
「甘えている」という判断をしてしまう
保護者が「また新しいことをやめたいと言った」と感じると「この子は何でもすぐに甘えてやめてしまう」という判断をしてしまうことがあります。
しかし、この判断には「その時々での子どもの本当の気持ち」が反映されていない可能性があるんです。
保護者の「未実現の夢」を投影する
保護者自身が「子どもの時にやりたかった習い事」がある場合、子どもに対して「続けなさい」と強く言ってしまうことがあります。
この場合、保護者は「子どものため」と思いながら「親の夢を実現させるため」の判断をしている可能性があります。
子どもが習い事をやめたいと言った時、保護者がすべきこと
まず「その気持ちを受け止める」
最初に大切なのは「やめたいんだね」と、子どもの気持ちを受け止めることなんです。その時点では「続けるべきか、やめるべきか」という判断ではなく「その気持ちを認める」ことが優先です。
実践のポイント
- やめたいんだね、と子どもの気持ちを繰り返す
- その気持ちは「悪いこと」ではなく「自然な気持ち」だと示す
- すぐに説得しようとしない
保護者がこのように受け止めることで、子どもは「親に自分の気持ちを打ち明けてもいい」という安心感を獲得するのです。
「なぜ、やめたいのか」を、丁寧に聞く
気持ちを受け止めた後「なぜ、習い事をやめたいのか」を「子どもが話しやすい雰囲気で」丁寧に聞くことが大切です。
実践のポイント
- なぜなの、と単に聞くのではなく、子どもが話しやすいような環境を作る
- 一つの質問に対して、子どもが答えるまで、丁寧に待つ
- 子どもの答えに対して「それは甘え」というような判断をしない
保護者が丁寧に聞くプロセスの中で「子どもの本当の気持ち」が、少しずつ明らかになっていくのです。
「習い事の内容が嫌」なのか「環境が嫌」なのか、区別する
子どもが習い事をやめたいと言う理由を聞く中で「習い事そのものが嫌」なのか「その教室の環境が嫌」なのか「友達関係が嫌」なのか、という具体的な理由を掴むことが大切なんです。
実践のポイント
- 〇〇という習い事そのものは好き、だけど〇〇が嫌、という場合もある
- 別の教室でなら続けられる、という可能性もある
- 具体的な理由によって、対応が変わる
この区別をすることで「やめるしかない」と思えた状況にも「別の選択肢」が見えてくる可能性があるのです。
「短期的な決断」ではなく「十分に考える時間」を作る
子どもが習い事をやめたいと言った時「今すぐ決断する」のではなく「一週間考えてから、また話し合おう」というような「十分に考える時間」を作ることが大切です。
実践のポイント
- 一度の話し合いではなく、複数回、子どもの気持ちを確認する
- その間に「続けた場合と、やめた場合の両方」を想像させる
- 子ども自身が「本当に何がしたいのか」を見つめる時間を作る
この時間を作ることで「感情的な判断」ではなく「子ども自身の意思に基づいた判断」につながっていくのです。
「続ける場合」「やめる場合」、両方のシナリオを一緒に考える
十分に考える時間を作った後「続ける場合、何が改善されたら続けられるか」「やめる場合、その後、どうするか」という両方のシナリオを、子どもと一緒に考えることが大切です。
実践のポイント
- 続ける場合、先生に相談する、クラスを変える、など、具体的な改善策を考える
- やめる場合、その後の時間をどう使うか、子どもに考えさせる
- 「やめることが悪い選択肢ではない」という認識を示す
このプロセスを通じて「子どもが主体的に決断する」という経験が生まれるのです。
保護者自身の「期待」を問い直す
子どもが習い事をやめたいと言った時「自分の期待が、この子にどのような影響を与えてきたのか」を、保護者が問い直すことが大切なんです。
実践のポイント
- この習い事は「子どもがやりたいこと」なのか「親がやらせたいこと」なのか、区別する
- 親の未実現の夢を、子どもに投影していないか、確認する
- 子どもの「本当の気持ち」と「親の期待」が、どの程度、ズレているのか、気づく
保護者がこのような問い直しをすることで「子どもの本当のニーズ」が見えてくるようになるのです。
実際の場面での対応例
【場面1】子どもが習い事をやめたいと言う場合
❌保護者の悪い対応: 月謝を払っているのに、もう少し続けなさい、と経済的な理由を持ち出す
✅保護者の良い対応: やめたいんだね。何があったの、と子どもの気持ちを聞く。その後、一週間考える時間を作ろう、と伝える
保護者のポイント
- 子どもの気持ちを最優先させる
- 経済的な理由は子どもの前では持ち出さない
- 十分に考える時間を作る
【場面2】子どもが「先生が怖い」と言う場合
❌保護者の悪い対応: 先生はそんなに怖くない、もっと頑張りなさい、と説得する
✅保護者の良い対応: 先生が怖いんだ。そっか。では、別の方法があるか考えてみようか。先生に相談する、クラスを変える、など、選択肢があるか確認する
保護者のポイント
- 子どもの感情を認める
- すぐに「続けなさい」と言わない
- 改善の可能性を一緒に探す
【場面3】「兄が習っているから、妹も習うべき」という親の期待がある場合
❌保護者の悪い対応: お兄さんも習っているのだから、あなたも続けなさい、と比較を持ち出す
✅保護者の良い対応: お兄さんと妹さんは別の人間だね。妹さんが本当にやりたいことは何かな、と子どもの本当の意思を確認する
保護者のポイント
- 子ども同士の比較をしない
- 子ども自身の意思を尊重する
- 兄弟で違う選択肢もあることを示す
【場面4】子どもが習い事をやめて別のことをしたいと言う場合
❌保護者の悪い対応: また新しいことを始めるの、とため息をつく
✅保護者の良い対応: 新しいことに興味が出たんだ。では、別のことを試してみようか。ただし、こちらも一定期間は続けることを約束しようね、と子どもと約束を作る
保護者のポイント
- 興味の変化を受け入れる
- 新しい挑戦をサポートする
- ただし「すぐにやめる」というパターンが繰り返されないよう、ある程度の期間は続けることを約束させる
子どもが「やめる決断」をした時
子どもが十分に考えた結果「やめたい」という決断をした場合「その決断を尊重する」ことが大切です。
重要なのは「その決断から、子どもが何を学ぶか」ということ。やめたことで「失ったこと」もあるかもしれませんが「決断する経験」「親が自分の気持ちを尊重してくれた経験」という、より大切なものを獲得しているのです。
療育現場での実例
ある保護者は、子どもが習い事をやめたいと言った時「すぐに『続けなさい』と言っていた」と、療育で相談しました。
保護者が「子どもの気持ちを聞く」という対応に変えると、子どもは「先生が怖い」「でも、習い事の内容は好き」ということを話したのです。
その後、別の教室を探すことで「習い事そのものは続け、環境だけ変わった」という結果になりました。
重要だったのは「保護者が、子どもの本当の気持ちを聞く」という対応だったのだと思います。
「やめたい」という声を聞く勇気
保護者にとって「子どもがやめたいと言う」というのは、時に「自分の期待が叶わなかった」という悔しさにつながるかもしれません。
しかし、その声を聞き、子どもの本当の気持ちに寄り添うことで「親が子どもを本当に信頼している」というメッセージが伝わるのです。
子どもがやめる決断をしたとしても「親がその決断を尊重してくれた」という経験が「子どもが自分の人生に責任を持つ」という力を育てていくのだと思うんです。
今日も、どこかで子どもが「習い事をやめたい」と保護者に言っているでしょう。その時、保護者が「その気持ちを聞く」という選択をすることで、親子の信頼はより一層、深まっていきます。