ひらがなは読めるのに漢字が頭に入らない?〜段階的な学習発達、文字習得の個人差、学習支援が必要な場面の判断〜

子どもがひらがなを流暢に読めるようになると、保護者は次に漢字を習得させようとします。しかし、ひらがなが読めるからといって、漢字も同じペースで習得できるとは限りません。
子どもによっては「ひらがなはスラスラ読めるのに、漢字になると全く頭に入らない」という状況が生まれることがあります。保護者は「ひらがなが読めるなら漢字も読めるはずなのに」と混乱し、焦りを感じるようになります。
しかし、実はひらがなと漢字の習得には「全く異なる認知プロセス」が関わっており、ひらがなができるからといって漢字ができるわけではないというのが、学習発達の現実なんです。子どもの「学習ペース」を理解し、段階的にサポートすることが、漢字習得への最短ルートになります。
ひらがなと漢字の習得が、全く異なる理由
ひらがなは「音と形の対応」が比較的シンプル
ひらがなは「あ、い、う、え、お」という46文字で、日本語の全ての音が表現できます。子どもは「音」と「形」を対応させるという「比較的シンプルなプロセス」を通じて、ひらがなを習得していくのです。
一度「あ、はどの形」と学べば、全ての「あ」が同じ形であり、その音は変わりません。この規則性が「ひらがな習得を比較的容易」にしています。
漢字は「形」「音」「意味」が複雑に絡み合っている
一方、漢字は「一つの文字に複数の音を持つ」「同じ音でも異なる文字がある」「文字の中に意味が含まれている」という「極めて複雑な関係」が存在しています。
例えば、同じ「生」という漢字でも「生まれる」なら「い」、「生活」なら「せい」という異なる音を持ちます。この複雑さが「漢字習得を難しく」しているのです。
漢字習得には「記号としての認識」が必要
ひらがなは「音を表す記号」として比較的シンプルに機能しますが、漢字は「意味を表す記号」として機能します。
子どもが漢字を習得するには「この形は、この意味を表しており、この音を持つ」という「多層的な認識」が必要になるのです。
漢字の習得には「手指の発達」も関わる
漢字を正確に書くためには「画数が多く」「筆順が複雑」であるため「手指の細かい運動能力」がある程度、発達している必要があります。
読むことと書くことが「異なるスキル」であり、両者の発達が「異なるタイミング」で進むということが、ひらがなと漢字の習得を複雑にしているのです。
漢字習得の発達段階
1年生~2年生:漢字への興味が芽生え始める段階
この段階では「全く漢字を読めない、または1~2文字読める」という状態が自然です。漢字への興味が芽生え始める時期であり、本格的な習得はまだ先のことです。
3年生~4年生:段階的に漢字習得が進む段階
この段階では「習った漢字を、ある程度読める」ようになり始めます。しかし「複雑な漢字」や「音訓が複数ある漢字」は「まだ習得できていない」という状態が自然です。
5年生以上:漢字習得が加速する段階
脳の発達が進み、抽象的な思考が可能になることで「漢字習得が加速」し始めます。ただし「完全な習得」には「さらに時間が必要」な場合が多いです。
漢字が習得できない時の「見守り方」
「ひらがなが読めるから漢字も読めるはず」という思い込みを手放す
最初に大切なのは「ひらがなと漢字は、全く異なるスキル」だと認識すること。
実践のポイント
- ひらがなの習得と漢字の習得は「異なる時間軸」で進むことを理解する
- 同じ「文字」でも「習得の難度は大きく異なる」と認識する
- 子どもが漢字を習得するのに「時間がかかる」ことは「自然」だと受け入れる
保護者がこのような認識を持つことで「無理な指導」を避けることができるようになります。
学年別の「標準的な漢字習得段階」を知る
各学年で習う漢字の数は「教育課程で決められている」ものの、「習った全ての漢字を完全に習得する」ことは「現実的ではない」という理解が必要です。
実践のポイント
- 学年で習う漢字を「全て覚えなければならない」とは考えない
- 基本的な漢字から「段階的に習得していく」というペースを認める
- 中学年(3~4年生)の段階では「一部の漢字が読めなくても問題ない」と認識する
保護者がこのような「現実的な目標」を持つことで「焦りが軽減される」のです。
「読む力」と「書く力」は別の発達として捉える
子どもが「漢字を読むことはできるが、書くことはできない」という段階は「非常に自然」です。読む力の方が先に発達し、書く力は後から発達するのです。
実践のポイント
- 読めない漢字を、すぐに書かせようとしない
- 先に「読む経験」を積ませ、その後「書く」という段階を踏む
- 「読めるが書けない」という段階を「成長のプロセス」と捉える
保護者がこのような「段階的な理解」を持つことで「子どもが自然なペースで習得できる」環境が整います。
「強制的な漢字学習」は避ける
保護者が焦りから「毎日、漢字の書き取りをさせる」「漢字テストに合格するまで練習させる」というようなことをすると「子どもが学習を嫌うようになる」可能性があります。
実践のポイント
- 漢字への興味が自然に生まれるまで「急かさない」
- 学校での漢字学習で「十分」と考える
- 家庭での追加学習は「子どもの興味」に基づいて行う
保護者が「焦りに基づいた指導」を避けることで「子どもが自発的に学習する」条件が整います。
「漢字が必要な場面」を自然に作る
親が無理に教えるのではなく「漢字を使う場面」を家庭に作ることで「子どもが自然と漢字に興味を持つようになる」かもしれません。
実践のポイント
- 食事の時に「この漢字は何」と子どもが聞いてきたら「〇〇という字だよ」と答える
- 手紙を一緒に書く時に「この字は漢字で書くんだ」と自然に見せる
- テレビの字幕に出てくる漢字に「あ、〇〇ちゃんが習った字だ」と気づかせる
保護者がこのような「自然な環境づくり」をすることで「子どもが自発的に漢字に興味を持つようになる」でしょう。
学校の先生と「漢字習得の目標」を共有する
漢字習得のペースが遅い場合「学校の先生と、どのような対応をするのかを相談する」ことが有効です。
実践のポイント
- 学校での様子を詳しく聞く
- 学年相応の習得が難しい場合「支援の必要性」について相談する
- 家庭と学校が「同じ方針」で対応することが重要
保護者と学校が「連携」することで「子どもへの支援の質」が向上していくのです。
「不要な不安」を手放す
漢字の習得が遅いことが「学習障害である」「知的障害がある」というわけではないという理解が必要です。
実践のポイント
- 漢字習得の遅さと「その子の学習能力全体」は別問題だと認識する
- 他の領域での学習は、どうなのか、という「総合的な視点」を持つ
- 必要に応じて「専門家に相談する」という選択肢を持つ
保護者がこのような「客観的な視点」を持つことで「不要な不安」から解放されるでしょう。
実際の場面での対応例
【場面1】子どもが漢字を習い始めたが、全く覚えられない場合
❌保護者の悪い対応: 毎日、漢字の書き取りをさせ、覚えるまで練習させる
✅保護者の良い対応: この子は、ひらがなから漢字へのシフトに時間がかかっているんだ。焦らずに、学校での学習だけで十分だと考える。もし、学年が進んでも習得が進まなければ、先生に相談しよう、と判断する
保護者のポイント
- 焦りを手放す
- 強制的な学習は避ける
- 学校との連携を図る
【場面2】漢字は読めるが、書くことができない場合
❌保護者の悪い対応: 読めるなら書けるはずだ、と書く練習に集中させる
✅保護者の良い対応: 読む力と書く力は別の発達段階だ。今は「読む」ができているので、十分な成長だ。書く力は、時間をかけて発達するんだ、と認識する
保護者のポイント
- 読む力と書く力を分けて考える
- 段階的な発達を理解する
- 今の成長を認める
【場面3】同級生は漢字が読めるのに、うちの子はまだ読めない場合
❌保護者の悪い対応: 周囲に追いつかせようと、無理な学習をさせる
✅保護者の良い対応: 漢字習得には「大きな個人差」がある。このペースでいい。ただし、本当に支援が必要かどうかは、専門家に相談してみよう、と判断する
保護者のポイント
- 個人差の大きさを認識する
- 周囲との比較から解放される
- 必要に応じて専門家に相談する
【場面4】子どもが「漢字が難しい」と言って、学習を避けるようになった場合
❌保護者の悪い対応: 頑張りなさい、逃げてはいけない、と無理に学習させる
✅保護者の良い対応: 漢字は難しいんだね。その気持ちはよくわかるよ。では、学校の学習だけで十分だから、家では無理にしなくていい。でも、いつでも手伝うからね、と伝える
保護者のポイント
- 子どもの気持ちを受け止める
- 学習嫌悪を生じさせない
- サポートできる姿勢を示す
【場面5】保護者自身が焦りを感じている場合
❌保護者の悪い対応: 焦りから、無理に指導し、親子関係が悪化する
✅保護者の良い対応: 自分が焦っていることに気づく。ひらがなと漢字は別のスキルだ、と理解する。その上で「何か支援が必要」と判断される場合は、専門家に任せるという決断をする
保護者のポイント
- 自分の焦りに気づく
- ひらがなと漢字の違いを理解する
- 必要に応じてプロに相談する
漢字習得は「長期戦」だと認識することが大切
ここで大切な理解があります。
漢字の習得は「短期間での習得を目指すもの」ではなく、小学校の6年間さらには中学校を通じて、段階的に進むプロセスです。
焦って「今、覚えさせよう」とするのではなく「長期的に、段階的に習得していく」というペースを認めることで「子どもの学習意欲」が守られていきます。
療育現場での実例
ある保護者は「ひらがなが読めるなら漢字も読めるはず」という思い込みから、毎日、漢字の練習をさせていました。その結果、子どもは「漢字学習を嫌うようになった」のです。
保護者が「ひらがなと漢字は全く異なるスキル」という認識を持つようになると焦りが軽減されました。
その後、学校での学習に任せ、家庭では「子どもの興味に基づいた対応」に変えたところ「子どもは徐々に、自分のペースで漢字に興味を持つようになった」と保護者は報告してくれました。
重要だったのは「保護者の認識の転換」だったと思われます。
「段階的な習得」を認めることで、子どもが伸びていく
子どもの漢字習得が遅いことに直面した保護者は「この子は学習能力が低いのではないか」と不安を感じるかもしれません。
しかし、実は「漢字習得には、ひらがなの習得とは全く異なるプロセス」があり「個人差も非常に大きい」という事実を知ることで「多くの保護者の不安」は軽減されるでしょう。
保護者が「段階的な習得を認め」「焦りを手放す」ことで「子どもは、自分のペースで学習し」「学習への興味を失わずに進んでいく」ことができるようになっていくと思うのです。
今日も、漢字習得に悩む子どもと保護者がいるでしょう。その時「ひらがなと漢字は異なるスキルである」「個人差は当たり前である」「長期的に習得していく」という、この3つの視点を持つことで「親の焦りは軽くなり」「子どもは、自分のペースで成長していく」という良い循環が生まれるに違いありません。