『ママ、もう一回言って』を何度も繰り返す子どもへの対応とは?

保育園や幼稚園から帰ってきた子どもに「今日は楽しかった?」と聞くと「えっ、何?」と返ってきます。また「靴を脱いでね」と言っても「ママ、もう一回言って」と何度も聞き返されることがあります。
多くの保護者は「聞いているはずなのに、なぜ何度も聞き返すのか」と不思議に思い「集中力がないのではないか」「聴覚に問題があるのではないか」と心配し始めるかもしれません。しかし、実は子どもが指示や会話を何度も聞き返すというのは「聴覚的理解の発達段階」での自然な現象であり、その背景にはいくつかの理由があるのです。
保護者が「聴覚的理解の発達」を理解し「子どもにとって分かりやすい指示の伝え方」を工夫することで「何度も聞き返す」という状況は大きく改善していきます。
子どもが何度も聞き返す理由
「聴覚的な処理」と「言語的な理解」には時間差がある
子どもが親の言葉を聞いたとき「音としては聞こえている」のですが「その音が何を意味するのか」を理解するまでに「時間がかかる」ことがあります。
この処理には「音声をキャッチする」「音声を言語に変換する」「その言語が何を意味するのかを認識する」というプロセスが関わっており非常に複雑なのです。子どもの脳はまだこのプロセスを「高速に実行する」ことができないため「もう一回言ってほしい」という要求が生まれます。
環境の「音声ノイズ」が言語理解を阻害している
家の中には「複数の音」が存在しています。テレビの音、兄弟姉妹の声、冷蔵庫の音、外の音——。子どもの聴覚的注意は「まだ選別する能力が十分に発達していない」ため「様々な音の中から、親の声を抽出し、理解する」ことが非常に難しいのです。
このため「音は聞こえているが、親が何を言っているのか、理解できない」という状況が生じます。
聴覚的な「作業記憶」の容量が限定されている
親が「今夜は〇〇を食べようね。それから〇〇をして、その後、〇〇をしましょう」と複数のことを言った場合、子どもの「作業記憶」には「最初の情報」しか残っていないかもしれません。
子どもの脳の「聴覚的な作業記憶の容量」は「非常に限定されている」ため「複数の情報」を「一度に理解すること」は難しいのです。
語彙の不足が「理解」を遅くしている
子どもが知らない言葉が含まれた指示をされた場合「その言葉の意味を推測する」ことに脳の処理能力が使われてしまい「全体の指示を理解する」ことが難しくなります。
語彙が増えるにつれて「初めての言葉でも、文脈から意味を推測する」という能力が発達していきます。
「集中力」が必要な場面での聴覚的処理の困難
子どもが何かに夢中になっている時に「ママ、もう一回言って」と聞き返されるのは、脳の処理能力が現在の活動に集中しており、新しい情報(親の指示)を処理する能力が不足しています。
このため「気が散ったから理解できなかった」のではなく「脳が現在の処理に集中していて、新しい情報を処理する余裕がない」という状況が生じているのです。
聴覚的理解の発達段階
1~2歳:単語レベルの理解
この時期の子どもは「ママ」「ワンワン」というような「単語単位」での理解が主です。複数の単語から構成される文は「理解できない」ことが多いです。
2~3歳:簡単な指示の理解
この時期になると「ママ、きて」「靴、脱いで」というような「簡単な一語か二語指示」が理解されるようになります。しかし複数の指示は、まだ理解困難です。
3~4歳:複合的な指示の理解が始まる
この時期から「靴を脱いでね」「ママのところに来てね」というような「二語以上の指示」が理解されるようになります。ただし「複数の条件を含む複雑な指示」は理解困難なままです。
4~5歳:複雑な指示への理解が進む
この時期になると「後で〇〇をしたら、その次に〇〇しようね」というような「時系列を含む複雑な指示」が「ある程度、理解されるようになり」ます。しかし「まだ何度も聞き返される」ことが自然です。
5~6歳以降:聴覚的理解の安定化
この時期になると「聴覚的な理解能力」がある程度、安定し「複雑な指示」も「比較的、正確に理解できる」ようになります。ただし「大量の情報」や「複雑で抽象的な説明」はまだ理解困難なままです。
聴覚的理解を支援するための対応
指示をするときは「短く、シンプルに」する
最初に大切なのは「親が与える指示を、できるだけ短く、シンプル」にすることです。
実践のポイント
- 一度に複数のことを言わない
- 一つの指示ごとに「一呼吸置く」
- 子どもが実行したのを確認した後に「次の指示」を与える
親がこのような「段階的な指示」をすることで「子どもの聴覚的処理」が容易になり「何度も聞き返す」ことが減少していくのです。
聞き返してきた時は「同じことをもう一回言う」
子どもが「ママ、もう一回言って」と聞き返してきた時「わかった?」と聞くのではなく「そっか、もう一回言おうか」と「同じことをもう一回、言ってあげる」ことが大切です。
実践のポイント
- 聞き返された時は「忍耐強く」もう一回言う
- この時「同じ方法」で言うのではなく「別の方法」で説明することも試す
- 子どもが理解するまで「何度でも繰り返す」という姿勢を示す
親がこのような「根気強い対応」をすることで「子どもが『聞き返してもいい』と感じ」「聴覚的な処理を、より注意深く行うようになる」のです。
「視覚的な情報」を組み合わせる
聴覚的な指示だけでなく「視覚的な情報」を組み合わせることで「子どもの理解」が大きく促進されます。
実践のポイント
- 指示をする時に「動作で示す」(靴を指すなど)
- 絵カードを使う
- 指をさして「あの箱に入れてね」というように「視覚的に示す」
親がこのような「マルチモーダルな説明」をすることで「子どもの理解が深まり」「聞き返す頻度」が減少していきます。
「音声以外の環境ノイズ」を減らす
聴覚的処理を促進するために「子どもの周囲の音声ノイズ」を減らすことが大切です。
実践のポイント
- 指示をする時は「テレビを消す」
- できるだけ「静かな環境」を作る
- 複数の人が話していない状況で「指示」をする
親がこのような「環境調整」をすることで「子どもが『親の声に集中しやすく』なり」「聴覚的な理解が促進される」のです。
「一対一の状況」を作る
子どもの聴覚的注意は「一対一の環境」で「最も機能する」傾向があります。
実践のポイント
- 重要な指示をする時は「子どもと一対一になる」
- 子どもと「同じ高さの目線」で話す
- 子どもの「肩に手を置く」などの身体的接触で「注意を引く」
親がこのような「対面的な状況」を作ることで「子どもの聴覚的注意」が高まり「指示が理解されやすくなる」のです。
「話し始める前に、注意を引く」
親が指示をする前に「子どもの注意を引く」というステップを加えることで「聴覚的処理の効率」が大きく上がります。
実練のポイント
- 「〇〇ちゃん、ママの話を聞いてほしいんだけど」と前置きする
- 子どもの名前を呼ぶ
- 子どもが親を見るまで「待つ」
親がこのような「注意引き」をしてから「指示」をすることで「子どもが『聞き準備』をしてから指示を受け取る」ことができるようになり「理解が促進される」のです。
「聴覚的な理解」に「予測可能性」を持たせる
子どもが「毎日、決まった時間に、決まった指示」を受けることで、その指示を『予測』し聴覚的な処理が容易になります。
実践のポイント
- 朝のルーティンを毎日「同じ順番」で行う
- 夜寝る前のルーティンを「毎日、同じ」にする
- 指示の言い方を「できるだけ一貫性を持たせる」
親がこのような「予測可能なパターン」を作ることで「子どもが『次に何が来るのか』を予測でき」「聴覚的処理が容易になる」のです。
「この子の聴覚的発達段階」を理解する
最後に大切なのは「その子の発達段階に合わせた指示」をすることです。4歳の子どもに「5~6歳レベルの複雑な指示」をしても理解できないのは当たり前です。
実践のポイント
- 子どもの年齢に応じた「複雑さレベル」の指示をする
- 複雑な説明が必要な場合は「段階的に説明する」
- 子どもが理解できるまで「焦らない」
親がこのような「発達段階の理解」を持つことで「不必要な焦り」が軽減され「子どもに合わせた適切な指示」ができるようになります。
実際の場面での対応例
【場面1】複数のことを同時に指示した場合
❌保護者の悪い対応: 靴を脱いで、手を洗って、ご飯を食べようね、と複数のことを言う
✅保護者の良い対応: 靴を脱いでね、と一つの指示をして実行を確認してから、次に手を洗おうね、と次の指示をする
保護者のポイント
- 一度に複数のことを言わない
- 段階的に指示をする
- 子どもの実行を確認してから次へ進む
【場面2】テレビがついている状況で指示をする場合
❌保護者の悪い対応: テレビをつけたままで指示をする
✅保護者の良い対応: テレビを消してから、子どもと向き合って指示をする
保護者のポイント
- 環境のノイズを減らす
- 一対一の状況を作る
- 子どもが集中できる環境を作る
【場面3】子どもが何度も「もう一回言って」と聞き返す場合
❌保護者の悪い対応: 何度も聞き返すなんて、ちゃんと聞きなさい、と叱る
✅保護者の良い対応: そっか、もう一回言おうか、と忍耐強くもう一回言う。それでも理解されなければ、別の方法で説明する
保護者のポイント
- 聞き返しを責めない
- 同じことをもう一回言う
- 別の説明方法を試す
【場面4】子どもが親を見ていない時に指示をする場合
❌保護者の悪い対応: 子どもの背後から、すぐに指示をする
✅保護者の良い対応: 〇〇ちゃん、ママの話があるんだけど、と呼びかけて、子どもが親を見るのを待ってから指示をする
保護者のポイント
- 注意を引く段階を作る
- 子どもの視線を確認してから指示をする
- 聞き準備が整うのを待つ
【場面5】保護者自身が「なぜ何度も聞き返すのか」と焦りを感じている場合
❌保護者の悪い対応: 聴覚発達の段階を理解せず、子どもを責め続ける
✅保護者の良い対応: この子の聴覚的理解は、今、発達中なんだ。何度も聞き返すのは「当たり前」だ。親がサポートする工夫をしよう、と認識する
保護者のポイント
- 聴覚的発達の段階を理解する
- 不必要な焦りを手放す
- サポートの工夫に焦点を当てる
「何度も聞き返す」は「聴覚的処理が発達中」の証
ここで大切な理解があります。
子どもが何度も聞き返すというのは「親の指示を聞いていない」のではなく「聴覚的な理解が『発達過程にある』」という証です。
親が「発達段階に合わせた指示の工夫」をすることで「子どもの聴覚的処理」が促進され「自然と聞き返す頻度が減っていく」のです。
療育現場での実例
ある保護者は「子どもが何度も『ママ、もう一回言って』と聞き返す」ことに「この子は、ちゃんと聞いていないのではないか」と感じていました。
保護者が「聴覚的処理の発達段階」を学び「短くシンプルな指示」「環境ノイズの軽減」「一対一での対話」を工夫するようになると「子どもが何度も聞き返す頻度」が大幅に減少したと報告してくれました。
また「指示を何度も聞き返しても、親は優しく対応してくれる」という安心感から「子どもはより積極的に聞き返すようになり」「その過程で聴覚的理解が進んだ」のです。
重要だったのは「保護者が『発達段階を理解する』」ことだったのだと思われます。
親の「工夫」が、子どもの聴覚的理解を促進する
子どもが何度も聞き返すという現象に直面した保護者は「この子に聴覚の問題があるのではないか」と不安を感じるかもしれません。
しかし、実は多くの子どもが経験する『聴覚的処理の発達過程』であり親がサポートの工夫をすることで大きく改善されることが多いのです。
親が「短くシンプルな指示」「視覚的な情報の組み合わせ」「環境ノイズの軽減」「一対一での対話」という「複合的な工夫」をすることで、子どもの聴覚的理解が促進され自然と聞き返す頻度が減っていきます。
今日も、何度も聞き返す子どもの姿を見て、疑問を感じる保護者がいるでしょう。その時「これは聴覚的処理の発達過程なんだ」「親がサポートする工夫ができる」という認識を持つことで「親の焦りは軽くなり」「子どもの聴覚的理解は着実に進んでいく」という良い循環が生まれていくに違いありません。