数字は読めるのに、『計算』と『数の意味』がわからない?

子どもが「3」という数字を見ると読むことはできます。しかし「3つのリンゴ」という概念になると、理解することが難しくなります。また「2+1」という計算の式は見えるのに「2個のクッキーと1個のクッキーで、いくつになるのか」という意味が理解できないということがあります。
多くの保護者は「数字が読めるなら、計算もできるはずなのに」と混乱し「この子は、算数が苦手なのではないか」と心配し始めます。しかし、実は「数字を読む能力」と「数的思考(数の意味を理解する能力)」は全く異なるスキルであり発達のタイミングも異なるのです。
子どもが数の意味を理解していくプロセスを知ることで、保護者は発達段階に合わせた適切なサポートができるようになっていきます。
「数字が読める」ことと「数を理解する」ことの違い
「数字を読む」は「記号を認識する」スキル
子どもが「3」という数字を読むことができるのは「その記号が『3』という音韻を表す」ということを学んだからです。これは「文字を読む」ときと同じプロセスであり「比較的、容易」に習得されます。
ただし、この時点では「3という数字が『3個の『ものを示す」という意味は、まだ理解されていない」のです。
「数を理解する」は「抽象的な概念を把握する」スキル
一方「3つのリンゴ」という概念を理解するためには「具体的な『3個のリンゴ』を見て」「それが『3』という数を表していることに気づき」「さらに『3という数を抽象化する』」というプロセスが必要です。
このプロセスは「非常に複雑」であり「神経学的な成熟」を必要とします。
「計算」は「複数のスキル」の統合
「2+1」という計算を実行するために必要なスキルは多岐にわたります。「2という数の意味を理解する」「1という数の意味を理解する」「足すという操作の意味を理解する」「結果が3になることを確認する」——。
これらの複数のスキルが「統合的に機能する」ことで、初めて「計算ができる」という状態が生まれるのです。
数的思考の発達段階
1~2歳:「もの」と「量」の関連性に気づき始める段階
この時期の子どもは「一つのクッキー」と「二つのクッキー」の「量的な違い」に、漠然と気づき始めます。ただし「数を言語化する」ことはできず「多い」「少ない」というような「相対的な理解」に留まっています。
2~3歳:「1」「2」「3」という数の語彙が出始める段階
この時期になると、子どもは「1つ、2つ、3つ」という数詞を使い始めます。しかし、この段階では「数詞を『唱える』だけ」であり「その数詞が『実際の量を示す』という理解」には至っていないことが多いのです。
3~4歳:「対応」が理解され始める段階
この段階で「ブロック1個に、ビー玉1個を対応させる」というような「一対一対応」が理解され始めます。この「対応」の理解が「数的思考の基礎」となり、その後の数的発達を支えるのです。
4~5歳:「保存」の概念が獲得される段階
これまで「見た目で個数を判断する」していた子どもが「ビー玉を横一列に並べたものと、丸くまとめたもの」が「同じ個数である」ということを理解し始めます。
この「形が変わっても、個数は変わらない」という「保存の概念」の獲得は「数的思考の大きな発展」なのです。
5~6歳:簡単な加算(足し算)が理解され始める段階
この段階で「2個のクッキーと1個のクッキーを合わせたら、3個になる」というような「簡単な足し算」が、具体物を使った活動を通じて「理解され始め」ます。
ただし「式だけを見て『2+1=3』と答える」ことはまだ難しく「具体的なものを使った視覚的な活動」が必要です。
6~7歳:抽象的な計算への移行が始まる段階
この段階で「具体物なしで『2+1』という式を見て、3と答える」ことが徐々に可能になっていきます。
ただし「この段階でも、多くの子どもは『指を使って数える』という方法」を使っており「純粋な暗算」は、まだ先のことです。
「数の意味がわからない」場合の原因
「一対一対応」が身についていない
子どもが「2+1」を理解するために必要な最初のステップは「2つのもの」と「1つのもの」が何であるか、を理解することです。
この「一対一対応」が身についていない場合「具体物を使った活動」を通じて「この対応関係」を学ぶ必要があるのです。
「加算の意味」が理解されていない
「足す」という操作が「何を意味するのか」を理解していない場合「2+1」という式を見ても「何をしたらいいのか」が分からないのです。
「2個のクッキーと1個のクッキーを『合わせる』」という具体的な操作を「繰り返す」ことで「足すという行為が『合わせることを意味する』」という理解が形成されていきます。
「抽象化」への準備ができていない
子どもが「具体物から、抽象的な数や計算への移行」を準備できていない場合「数字を読むことはできても、計算ができない」という状況が生じるのです。
この場合「具体物を使った活動」を十分に行い、その子が『抽象化への準備』ができるまで時間をかける必要があります。
数的思考を育むための対応
「日常生活の中で、数を使う機会」を作る
最初に大切なのは「家庭の中で、自然に『数』を使う場面」を増やすことです。
実践のポイント
- 食事の時に「いくつ食べたい」と聞く
- おもちゃを片付ける時に「3個ずつ、ここに入れようね」と言う
- 階段を上がる時に「1、2、3」と一緒に数える
- 買い物に行った時に「バナナが2本ですね」と伝える
保護者がこのような「数を使う機会」を自然に作ることで「子どもの中に『数への親しみ』が形成され」「数的思考が育まれていく」のです。
「具体物」を使った活動を優先させる
子どもが数の意味を理解するために「最も有効」なのは「実際のものを数える」という活動です。
実践のポイント
- ブロックやビー玉などの「数えられるもの」を用意する
- 親と子で「一緒に数える」という活動をする
- 親が「数えたものを、視覚的に示す」(例:ブロックを一列に並べる)
- 子どもが「自分で数える」という主体的な活動を促す
保護者がこのような「具体物を使った活動」を、繰り返し行うことで子どもの中に『数の概念』が形成されていきます。
「一対一対応」を意識的に教える
数的思考の基礎である「一対一対応」を、意識的に教えることが大切です。
実践のポイント
- 「クマのぬいぐるみ1個に、ボタン1個をつける」というような活動
- 「お母さんの椅子が1個、お子さんの椅子が1個」というような対応関係を視覚的に示す
- 「この子が1人、あの子が1人で、合わせて2人」というような会話
保護者がこのような「対応関係」を、繰り返し示すことで子どもが『対応』の概念を理解していきます。
「加算(足し算)の操作」を、具体的に経験させる
「足す」という操作が「何を意味するのか」を、具体的に経験させることが重要です。
実践のポイント
- 「赤いブロック2個と、青いブロック1個を『合わせたら』いくつになる」という操作を視覚的に示す
- 子どもに「一緒に数える」というアクティビティを行わせる
- 「足す=合わせる」という意味を、繰り返し示す
保護者がこのような「操作的な経験」を提供することで、子どもは『足す意味』を理解していきます。
「計算の式」は「後から」導入する
数の意味が十分に理解されていない段階で「2+1=3」という「式」を導入することは、子どもを混乱させるだけです。
実践のポイント
- 最初は「具体物を使った操作」に集中する
- 「十分に具体物での経験」を積んだ後に「式」を導入する
- 式を見た時に「具体物を想像できる」ようになるまで、焦らない
保護者がこのような「段階的な進め方」をすることで、子どもが『式と具体物の対応関係』を理解し、やがて『抽象的な計算』ができるようになっていきます。
「子どもの発達段階」に合わせた期待をする
最後に大切なのは、その子の発達段階に合わせた『期待と目標』を設定することです。
実践のポイント
- 4歳の子どもに「複雑な計算」を期待しない
- 5~6歳でも「具体物を使って」計算しているのは「自然」だと認識する
- 子どもが「抽象化への準備」ができるまで「焦らない」
保護者がこのような「現実的な期待」を持つことで、不必要な焦りが軽減され、子どもが『自分のペースで数的思考を発達させる』ことができるようになるのです。
学校や専門家との連携
もし、学年が進んでも「計算ができない」「数の意味が理解できない」という状況が続く場合、学校の先生に相談する・専門家に相談することを検討する時期かもしれません。
実践のポイント
- 小学校に入学後「計算が極端に遅れている」と感じたら「先生に相談する」
- 「学習支援が必要」と判断された場合は「専門家の評価」を受ける
- 家庭と学校が「同じ方針」で対応することが重要
保護者が「早期に相談する」ことで、その子に合わせた『適切な支援』を受けることができるのです。
実際の場面での対応例
【場面1】子どもが数字は読めるが、計算ができない場合
❌保護者の悪い対応: 数字が読めるなら、計算もできるはずだ、と期待する
✅保護者の良い対応: 数字を読むことと、計算することは『別のスキル』だ。この子は、まだ『具体物を使った活動』の段階なんだ、と認識する
保護者のポイント
- 数字の読みと計算を分けて考える
- 段階的な発達を理解する
- 子どもの現在地を認識する
【場面2】子どもに「2+1」という計算を教えようとしている場合
❌保護者の悪い対応: 式を見せて「2足す1は3」と説明する
✅保護者の良い対応: クッキーを2個と1個並べて「合わせたら、いくつになった」と見させ、実際に数えさせる。その後「これが『2足す1』という計算なんだ」と説明する
保護者のポイント
- 具体物から始める
- 操作を通じて意味を理解させる
- その後に式を導入する
【場面3】日常生活で、数を使う場面を作りたい場合
❌保護者の悪い対応: 計算のドリルをさせる
✅保護者の良い対応: 食卓で「いくつ食べたい」「いくつ、あるのかな」というような会話を通じて、自然に『数』を使わせる
保護者のポイント
- 日常生活の中で数を使う
- 意識的な学習よりも「自然な活動」を優先させる
- 親子の関わりの中で数が育つ
【場面4】子どもが「数を数えるのが苦手」だと気づいた場合
❌保護者の悪い対応: 数え方を教え、繰り返し練習させる
✅保護者の良い対応: 子どもと一緒に「積み木を1個ずつ数えながら、一列に並べる」というような『一対一対応』の活動をする
保護者のポイント
- 対応関係の理解を優先させる
- 親と一緒に活動する
- 楽しい雰囲気で行う
【場面5】小学校に入学後、計算が大きく遅れていることに気づいた場合
❌保護者の悪い対応: 家庭で、毎日、計算ドリルをさせる
✅保護者の良い対応: 学校の先生に相談し、この子がどの段階にいるのかを理解する。その上で「具体物を使った活動」をサポートすることを検討する
保護者のポイント
- 学校との連携を図る
- 専門家の評価を受けることを検討する
- 強制的な学習は避ける
「数的思考」は「段階的に発達する」ものである
ここで大切な理解があります。
子どもが「数字を読める」ことと「数を理解する」ことは、全く異なるプロセスであり発達のタイミングも異なります。
保護者が「段階的な発達」を理解し「その子の現在地に合わせたサポート」をすることで、子どもの数的思考は自然に育まれていくのです。
療育現場での実例
ある保護者は「数字が読めるなら、計算もできるはずだ」と思い込み、毎日、計算ドリルをさせていました。その結果、子どもは計算することが嫌になり、さらに理解が進まなくなってしまいました。
保護者が「数字の読みと計算は『別のスキル』だ」と理解し「具体物を使った活動」に変えると、子どもの中に『数の概念』が少しずつ形成され始めたと報告してくれました。
また「日常生活の中で、自然に『数を使う場面』を作る」ことで、子どもは『計算』を『生活の一部』と認識し始め、学習への抵抗感も減少していきました。
重要だったのは、保護者の『認識の転換』だったのだと思われます。
子どもの「数的思考」は「具体的な経験」の中で育つ
子どもが「数字は読めるのに、計算ができない」という状況に直面した保護者は「この子は『算数が苦手』なのではないか」と心配するかもしれません。
しかし、実は「数的思考の発達」には「具体物を使った活動」が最も重要であり段階的なプロセスが必要です。
保護者が「焦りを手放し」「その子の現在地を認識し」「具体物を使った活動」を提供することで、子どもの数的思考は、着実に育まれていくのだと思われます。
今日も、数字は読めるのに計算ができない子どもと、戸惑う保護者がいるでしょう。その時「これは発達の段階なんだ」「具体物を使った活動が大切なんだ」「焦らず、段階を踏んでいこう」という認識を持つことで、親の焦りは軽くなり子どもは、自分のペースで数的思考を育てていくという良い循環が生まれていくに違いありません。