気持ちが言葉にならず、すぐに泣いたり怒ったりする子ども

子どもが何か嫌なことがあった時「どうしたの」と聞いても「わからない」と答えるだけで、その後、泣いたり、怒ったり、物を投げたりするようになることがあります。また、友達とトラブルになった時も「何があったのか」を言葉で説明することができず、感情的な反応だけが表れてくるというようなことが起こります。
多くの保護者は「この子は感情をコントロールできないのか」「この子には何か問題があるのか」と不安を感じるようになります。しかし、実は子どもが「自分の気持ちを言葉で表現できない」というのは「感情語彙の発達途上」であり「発達の過程での自然な状態」なのです。
子どもが「自分の気持ちを言葉で表現する力」を習得していくプロセスを、保護者が理解し、丁寧にサポートすることで「感情的な反応」は少しずつ「言葉による表現」へと変わっていくのです。
子どもが気持ちを言葉で表現できない理由
「感情」と「それを表現する言葉」の結びつきがまだ弱い
子どもが「悔しい」「悲しい」というような感情を「経験する」ことと「その感情を『悔しい』という言葉で表現する」ことは「異なるプロセス」です。
子どもは「感情を経験する能力」は十分に発達しているのですが「その感情に『言葉のラベル』を貼る」という「メタ認知的なプロセス」がまだ発達していないのです。
「感情語彙」の習得が遅れている
子どもの「感情語彙」(喜び、悲しみ、怒り、悔しさなど、感情を表す言葉)は「非常に限定されている」ことが多く、語彙が増えるにつれて「自分の感情を、より正確に、より細かく表現する」ことができるようになっていくのです。
「自分の内面に注意を向ける」という能力が発達中
子どもが「自分は今、どのような気持ちなのか」を「意識する」ということ自体が「発達を必要とするスキル」です。
この「内観的な注意」の発達なしに「気持ちを言葉で表現する」ことはできないのです。
「脳の言語中枢」と「情動中枢」の統合が進行中
感情を言葉で表現するためには「感情を処理する脳の領域」と「言語を処理する脳の領域」が「統合的に機能する」ことが必要です。
この統合は「段階的に進む」ため、幼い子どもほど「感情的な反応」が先行し「言語による表現」が後からついていきます。
感情表現の発達段階
1~2歳:「泣く」「笑う」「怒る」という基本的な感情反応の段階
この時期の子どもの感情表現は「身体的な反応」に限定されています。言葉による表現はほぼ存在しません。
2~3歳:「嫌」「好き」という簡単な感情語彙が出始める段階
この時期になると「嫌」「好き」というような「基本的な感情語彙」が出始めます。しかし「複雑な感情」を表現することはまだ難しいです。
3~4歳:「悔しい」「楽しい」というような、より複雑な感情語彙が増え始める段階
この段階で「感情語彙が増え始め」「自分の気持ちを『言葉で説明する』という試み」が見られるようになります。ただし「完全な表現」はまだ難しいです。
4~5歳:「複数の感情を言葉で区別」できるようになり始める段階
この時期になると「同じ『悲しい』でも『友達が来なくて悲しい』『失敗して悔しい』というように『複数の感情を区別』」できるようになり始めます。
5~6歳:「感情的な原因と結果」を言葉で説明できるようになり始める段階
この段階で「〇〇が起こったから、悔しい気持ちになった」というように「感情の背景」を言葉で説明する力が育ち始めるのです。
6~7歳以降:「複雑な感情」を「より正確に表現」できるようになる段階
この時期に「自分の気持ちを、より詳しく、より正確に表現する」ことができるようになり始めます。ただし「完全な発達」には「さらに長い時間」が必要です。
子どもが感情的に反応する時の対応
「感情を受け止める」ことが最優先
子どもが泣いたり、怒ったりしている時「その気持ちを受け止める」ことが「最も大切」です。
実践のポイント
- 泣いている子どもを「静かにしなさい」と止めない
- 怒りを「いけない感情」と否定しない
- 感情そのものを「受け入れる」
保護者がこのような「感情の受け入れ」をすることで、子どもは『自分の気持ちは大事にされている』と感じ、落ち着きやすくなります。
「感情に言葉を与える」
子どもが泣いたり、怒ったりしている時「保護者が『その感情に言葉を与える』」という工夫が有効です。
実践のポイント
- 泣いている子どもに対して「悔しいんだね」と言葉を与える
- 怒っている子どもに対して「嫌だったんだね」と言葉を与える
- 子どどもが「自分の感情に『言葉のラベル』を貼る」という経験を積む
保護者がこのような「感情語彙の提供」をすることで「子どもは『感情と言葉の結びつき』を学んでいく」のです。
「落ち着いた後に」話を聞く
感情的になっている最中に「何があったのか」を聞こうとしても「子どもは言葉で説明することができない」状態です。
実践のポイント
- 感情的な状態では「話を聞かない」
- 子どもが「落ち着いた後」に「何があったの」と聞く
- 子どもが話しやすい「静かな環境」を作る
保護者がこのような「タイミングの工夫」をすることで、子どもが『言葉で説明する』という機会が生まれます。
「感情の『原因』を一緒に探す」
子どもが落ち着いた後「どうして、そういう気持ちになったのか」を「一緒に考える」という活動が大切です。
実践のポイント
- 〇〇が起こったから、悔しくなったんだね、と原因と感情を結びつける
- 子どもが「自分の感情の理由」に気づく手助けをする
- 親が「一方的に説明する」のではなく「子どもが気づくのを待つ」
保護者がこのような「対話」をすることで「子どもが『感情と原因の関係』を理解し始め」「やがて『自分で説明できるようになる』」のです。
「感情語彙を意図的に増やす」
子どもの「感情語彙」を増やすために「日常の中で、意識的に『感情語彙』を使う」という工夫が有効です。
実践のポイント
- テレビを見ている時に「この人は、楽しそうだね」と感情を言語化する
- 自分の気持ちについても「ママは、今、嬉しいな」と表現する
- 子どもが「様々な感情語彙」に触れる機会を作る
保護者がこのような「言語的な環境」を作ることで、子どもの感情語彙が自然に増えていきます。
「感情調整スキル」を段階的に教える
子どもが「感情的になった時に、どのように対処するか」という「感情調整スキル」を教えることが大切です。
実践のポイント
- 深呼吸をする、という簡単な方法から始める
- 水を飲む、外に出る、というような「気分を変える方法」を教える
- 子どもが「自分で感情を調整する」という経験を積む
保護者がこのような「スキルの教え方」をすることで「子どもが『感情的な反応を減らし』」「『より言葉による表現』ができるようになる」のです。
「親自身が感情を言語化する」
子どもが「感情を言葉で表現する」という習慣を身につけるために「保護者自身が『自分の感情を言語化する』」という姿勢が重要です。
実践のポイント
- ママは、今、疲れているな、と自分の気持ちを口に出す
- 〇〇のことで嬉しくなった、と感情を共有する
- 子どもに「モデル」を示す
保護者がこのような「自己開示」をすることで、子どもは『大人も感情を言葉で表現する』ということを学んでいきます。
「焦らない」という親の姿勢
最後に大切なのは、子どもが『感情を言葉で表現できるようになるまで』『焦らない』という親の決意です。
実践のポイント
- この発達は「段階的に進む」ことを理解する
- 「すぐに言葉で説明できる」ようにはならないと認識する
- 「小さな進歩」を認める
保護者がこのような「長期的な視点」を持つことで「子どもが『自分のペースで』感情表現を発達させていく」ことができるようになるのです。
実際の場面での対応例
【場面1】子どもが泣きながら「わからない」と言う場合
❌保護者の悪い対応: 何があったのか、きちんと説明しなさい、と無理に聞き出そうとする
✅保護者の良い対応: そっか、悔しくて泣いてるんだね。その気持ちはよくわかるよ。今は泣いていてもいい。落ち着いたら、ママに教えてね、と伝える
保護者のポイント
- 感情を受け止める
- 無理に説明させない
- 落ち着きを待つ
【場面2】友達とトラブルになり、感情的になっている場合
❌保護者の悪い対応: すぐに「何があったのか」を聞き、その場で解決させようとする
✅保護者の良い対応: 落ち着くまで、子どものそばにいてあげる。落ち着いた後に「何があったの」と聞く。子どもが説明しきれなければ「悔しかったんだね」と感情をラベリングしてあげる
保護者のポイント
- 感情的な状態では解決しない
- 落ち着いた後に話を聞く
- 感情語彙を提供する
【場面3】テレビを見ている時に「この子は怒ってる」と登場人物の感情を示す場合
❌保護者の悪い対応: テレビを見せるだけで、特に何も言わない
✅保護者の良い対応: この人、悔しそうだね。あなたも、この人みたいに、悔しい気持ちになったことはある、と感情語彙を増やす機会を作る
保護者のポイント
- 日常の中で感情語彙を使う
- 登場人物の感情を言語化する
- 子どもと感情について対話する
【場面4】子どもが感情調整できず、物を投げた場合
❌保護者の悪い対応: 物を投げてはダメ、と叱る
✅保護者の良い対応: 悔しい気持ちはわかるよ。でも物を投げると、危ないね。今度、こういう時は『深呼吸する』『お水を飲む』というように対処しようね、と教える
保護者のポイント
- 感情は受け止める
- 行動は指導する
- 対処法を教える
【場面5】保護者自身が感情的になっている場合
❌保護者の悪い対応: 親の感情をそのまま子どもにぶつける
✅保護者の良い対応: ママは、今、疲れているから、ちょっと機嫌が悪いんだ。あなたが悪いわけではないんだよ、と子どもに説明する
保護者のポイント
- 親の感情も言語化する
- 子どもに「モデル」を示す
- 誤解を解く
「感情の言語化」は「段階的な発達プロセス」である
ここで大切な理解があります。
子どもが「気持ちを言葉で表現できない」というのは「発達が遅れている」ことではなく「感情語彙と『感情を言葉で表現する能力』が『発達過程にある』」という証なのです。
保護者が「感情を受け入れ」「感情語彙を提供し」「落ち着いた後に対話する」という丁寧なサポートをすることで、子どもは少しずつ『言葉による表現』へと移行していきます。
療育現場での実例
ある子どもは「友達とトラブルになると、すぐに泣いて」「その後『わからない』と言うだけで」「何があったのか説明できない」という状況が続いていました。保護者は「この子は何か問題があるのでは」と不安を感じていました。
保護者が「感情語彙の提供」と「感情が言葉になるまでのサポート」を意識的に行い始めると「子どもが『悔しい』『嫌だった』というように『感情を言葉で表現し始めた』」のです。
さらに「落ち着いた後に『何があったのか』を聞く」という対応を続けると「子どもは『段階的に「 その時の状況を説明できるようになり』」「やがて『感情的な反応が減少した』」と保護者は報告してくれました。
重要だったのは「保護者が『これは発達の過程なんだ』と理解し」「長期的なサポート」を続けたことだったのだと思われます。
親の「言語的なサポート」が、子どもの感情表現を育む
子どもが「気持ちを言葉で表現できず」「すぐに感情的になる」という現象に直面した保護者は「この子には何か問題があるのでは」と不安を感じるかもしれません。
しかし、実は「多くの子どもが経験する『感情語彙の発達過程』」であり「保護者が『感情を受け入れ』」「『感情語彙を提供する』」ことで「子どもの表現力は着実に発達していく」ことができるのです。
保護者が「感情を受け止め」「言語的なモデル」を示し「落ち着いた後に対話する」という「複合的なサポート」をすることで「子どもの『感情的な反応』は少しずつ『言葉による表現』へと変わっていく」のだと思われます。
今日も「気持ちが言葉にならず」「泣いたり怒ったりする」という子どもの姿を見て「何か問題があるのではないか」と心配する保護者がいるでしょう。その時「これは『発達過程』なんだ」「『感情語彙は発達するもの』なんだ」「『親のサポートで、確実に変わっていく』」という認識を持つことで「親の不安は軽くなり」「子どもは『自分のペースで』感情を言葉で表現できるようになっていく」という良い循環が生まれていくに違いありません。