話しかけても反応しない、、、会話が続かない子ども

おはよう、と声をかけても返事がない、今日何があったの?と聞いても黙っている、会話をしようとしても一言で終わってしまう。発達支援が必要な子どもの中には、コミュニケーションに大きな困難を抱えている子どもがいます。
保護者は、この子は私の話を聞いていないのか、興味がないのか、嫌われているのかと不安を感じます。何度も話しかけても反応がないと、保護者自身も疲れてしまい、やがて話しかけることを諦めてしまうこともあるでしょう。
しかし、子どもが反応しないのは、親を嫌っているからでも、話を聞いていないからでもありません。言葉の理解、言葉の表現、対人コミュニケーションの発達において、その子なりの困難を抱えているのです。
保護者がコミュニケーション発達の特性を理解し、その子に合った関わり方を学び、焦らず段階的に支援していくことで、子どもは少しずつ会話を楽しめるようになっていきます。
コミュニケーションが難しい理由
言葉の理解の遅れ
子どもが話しかけられても反応しない理由の一つは、言葉そのものを理解できていないことです。
音としては聞こえているけれど、その音が何を意味するのか分からない。特に抽象的な言葉、長い文章、複雑な指示は理解が難しいのです。理解できない言葉に対して、子どもは反応のしようがありません。
言葉の表現の困難
言葉は理解できていても、自分の気持ちや考えを言葉にして表現することが難しい子どもがいます。
頭の中では分かっているのに、それを言葉として口に出すことができない。どう答えたらいいのか分からない。そのようなもどかしさを抱えています。
処理速度の遅さ
言葉を理解し、答えを考え、それを言葉にするまでに、時間がかかる子どもがいます。
保護者が答えを待ちきれずに次の質問をしたり、自分で答えを言ってしまったりすることで、子どもは答える機会を失ってしまいます。処理に時間が必要なだけで、答えられないわけではないのです。
相手の意図を読み取る困難
会話では、言葉の意味だけでなく、相手が何を求めているのか、何を期待しているのかを理解する必要があります。
発達支援が必要な子どもは、この相手の意図を読み取ることが苦手です。質問されているのか、指示されているのか、雑談なのか、その区別がつかないこともあります。
視線や表情の理解の困難
コミュニケーションは言葉だけでなく、視線、表情、ジェスチャーなど非言語的な要素も重要です。
発達支援が必要な子どもは、これらの非言語的なサインを読み取ることが苦手であり、言葉以外の情報を活用できないのです。
会話のルールの理解不足
会話には暗黙のルールがあります。相手の話を聞く、順番に話す、話題を共有する、相手の反応を見るなど。
発達支援が必要な子どもは、これらのルールを自然には学べないことが多く、会話がうまく成立しない場合もあります。
興味の偏り
自分の興味のあることについては熱心に話すけれど、それ以外のことには全く反応しないという子どももいます。
興味の範囲が狭く、相手の話題に合わせることが難しいため、会話が続きません。
感覚的な問題
話しかけられること自体が、感覚的に負担になっている場合もあります。
音声の刺激、相手との距離の近さ、視線を合わせることへの不快感など、会話の状況そのものがストレスになっているのです。
コミュニケーション発達の段階
前言語期(0〜1歳頃):非言語的なやりとり
この時期は、言葉ではなく、視線、表情、身振りでコミュニケーションをとります。
発達支援が必要な子どもは、この非言語的なやりとりの段階で既に困難を示すことがあります。目が合いにくい、指さしをしない、共同注意が成立しにくいなどです。
一語文期(1〜2歳頃):単語でのコミュニケーション
この時期は、ママ、ワンワン、チョウダイなど、一つの言葉で意思を伝えます。
発達支援が必要な子どもは、この段階に到達する時期が遅れることがあります。また、言葉は出ても、コミュニケーションの手段として使えないこともあります。
二語文期(2〜3歳頃):言葉を組み合わせる
この時期は、ママ キタ、リンゴ チョウダイなど、言葉を組み合わせて伝えます。
発達支援が必要な子どもは、単語は増えても、組み合わせることが難しい場合があります。また、質問に答えることがまだ難しい段階です。
会話期(3歳以降):やりとりの成立
この時期は、相手の質問に答える、自分から話しかける、会話のキャッチボールができるようになります。
発達支援が必要な子どもは、この会話のキャッチボールが非常に難しく、一方的に話す、または全く話さないという状態になることがあります。
会話スキルの段階的支援
まず子どもの興味に寄り添う
会話を強要するのではなく、子どもが興味を持っていることに保護者が寄り添うことから始めます。
実践のポイント
- 子どもが遊んでいるものに一緒に注目する
- 子どもが見ているものを一緒に見る
- 子どもの行動を実況する(積み木を積んでいるね、など)
- 子どもが興味を示したことに反応する
保護者がこのような関わりをすることで、子どもは保護者とのやりとりに興味を持ち始めます。
視覚的なサポートを使う
言葉だけでなく、視覚的な情報を加えることで理解が深まります。
実践のポイント
- 絵カード、写真を使う
- ジェスチャーをつける
- 実物を見せながら話す
- スケジュールボードで視覚化する
保護者がこのような視覚的サポートをすることで、子どもの理解が進みます。
短く、シンプルに話す
長い文章、複雑な表現は避け、短くシンプルな言葉で話すことが重要です。
実践のポイント
- 一文は短く、一つの内容に絞る
- 抽象的な言葉ではなく、具体的な言葉を使う
- 今日どうだった?ではなく、給食何食べた?など具体的に聞く
- 選択肢を示す(りんごとバナナ、どっち?)
保護者がこのような配慮をすることで、子どもは理解しやすくなります。
答える時間を十分に待つ
子どもが答えるまでの時間を、じっくり待つことが大切です。
実践のポイント
- 質問したら、少なくとも10秒は待つ
- 待っている間、子どもの表情を見守る
- 答えが出なくても急かさない
- 沈黙を恐れない
保護者が待つことで、子どもは自分のペースで答えられるようになります。
クローズドクエスチョンから始める
最初は、はい・いいえで答えられる質問から始めることが有効です。
実践のポイント
- 今日楽しかった?(はい・いいえ)
- りんご食べる?(はい・いいえ)
- 徐々に、どっち?(二択)の質問に移行
- その後、何が?どれ?など簡単な質問へ
保護者がこのような段階的なアプローチをすることで、子どもは答える経験を積めます。
子どもの発言を広げる
子どもが一言でも発言したら、それを拾って広げることが大切です。
実践のポイント
- 子どもがワンワンと言ったら、そうだね、犬がいるねと広げる
- 子どもがイヤと言ったら、嫌なんだね、何が嫌なの?と問いかける
- 子どもの言葉を繰り返し、確認する
- 子どもの意図を言語化してあげる
保護者がこのような関わりをすることで、子どもの言葉が豊かになっていきます。
会話のモデルを示す
会話のやり方を、保護者が実際にやって見せることが重要です。
実践のポイント
- 挨拶の仕方を見せる
- 質問の仕方を見せる
- 答え方を見せる
- 相づちの打ち方を見せる
保護者がモデルを示すことで、子どもは会話のパターンを学びます。
成功体験を積む
会話ができた、通じたという成功体験を積むことが、次へのモチベーションになります。
実践のポイント
- 子どもが答えられたら大いに喜ぶ
- 通じて嬉しい、という気持ちを伝える
- 小さな会話の成立を喜ぶ
- 会話が楽しいと感じられる経験を増やす
保護者がこのような肯定的な関わりをすることで、子どもは会話を楽しめるようになります。
親子の対話を豊かにする工夫
日常の中での声かけ
特別な時間を作らなくても、日常の中で自然に声をかけることが大切です。
実践のポイント
- 朝起きたら、おはよう
- ご飯の時、おいしいね
- お風呂で、気持ちいいね
- 実況中継のように、今していることを言葉にする
保護者がこのような声かけを続けることで、子どもは言葉のシャワーを浴びます。
絵本の読み聞かせ
絵本は、言葉を豊かにし、会話のきっかけになります。
実践のポイント
- 子どもの好きな絵本を繰り返し読む
- 絵を指さしながら、これは何?と聞く
- 次どうなる?と予測を促す
- 子どもが指さしたものを言語化する
保護者が絵本を活用することで、楽しみながら言葉を学べます。
ごっこ遊び
ごっこ遊びは、会話を練習する絶好の機会です。
実践のポイント
- お店屋さんごっこ、お医者さんごっこなど
- やりとりのパターンを何度も繰り返す
- ください、ありがとうなど決まった言葉を使う
- 楽しみながら会話の練習をする
保護者がごっこ遊びを取り入れることで、自然に会話が増えます。
歌や手遊び
リズムに乗せた言葉は、子どもに入りやすくなります。
実践のポイント
- 童謡を一緒に歌う
- 手遊び歌をする
- 繰り返しのあるリズミカルな遊び
- 体を動かしながら言葉を楽しむ
保護者が歌や手遊びを取り入れることで、言葉への興味が高まります。
失敗を恐れない環境
間違えても、うまく言えなくても、それが許される環境を作ることが大切です。
実践のポイント
- 間違いを指摘しない
- うまく言えなくても受け入れる
- 正しい言い方を押し付けない
- 伝わったことを喜ぶ
保護者がこのような環境を作ることで、子どもは安心して言葉を使えます。
専門的な支援の活用
言語聴覚士などへの相談
言葉の発達に心配がある場合、言語聴覚士などに相談することが有効です。
実践のポイント
- 子どもの言語発達の状態を評価してもらう
- 具体的な訓練方法を教えてもらう
- 家庭でできる関わり方を学ぶ
- 定期的に経過を見てもらう
保護者が専門家の助けを借りることで、より効果的な支援ができます。
療育での支援
療育施設では、コミュニケーションスキルを学ぶプログラムがあります。
実践のポイント
- 小集団での会話の練習
- ソーシャルスキルトレーニング
- 同年齢の子どもとのやりとり
- 専門家の指導のもとでの練習
保護者が療育を活用することで、子どもの会話スキルが向上します。
学校や園との連携
学校や園でのコミュニケーションの様子を共有することが重要です。
実践のポイント
- 家庭での様子を伝える
- 学校での様子を聞く
- 同じアプローチで支援する
- 成長を共有する
保護者と学校が連携することで、一貫した支援ができます。
実際の場面での対応例
【場面1】おはよう、と声をかけても返事がない
❌保護者の悪い対応:何度も大きな声で、おはよう!返事は!と強要する
✅保護者の良い対応:おはよう、と声をかけて、返事を待つ。返事がなくても責めず、また明日も声をかける。徐々に、子どもが反応しやすいタイミングを見つけていく
保護者のポイント
- 強要しない
- 焦らない
- 続ける
【場面2】今日何があった?と聞いても黙っている
❌保護者の悪い対応:何でも話してよ、何があったの?何も言わないの?と畳み掛ける
✅保護者の良い対応:今日楽しかった?とはい・いいえで答えられる質問に変える。または、給食何食べた?など具体的な質問をする。答えを待つ時間を十分に取る
保護者のポイント
- 質問を具体的にする
- シンプルにする
- 待つ
【場面3】一言答えてそれで終わる
❌保護者の悪い対応:もっと話してよ、と要求する
✅保護者の良い対応:一言でも答えてくれたことを喜ぶ。その一言を拾って、そうなんだ、それで?と優しく促す。無理に続けようとせず、子どものペースを尊重する
保護者のポイント
- 一言を喜ぶ
- 優しく促す
- 無理をしない
【場面4】自分の興味のあることしか話さない
❌保護者の悪い対応:その話はもういいから、他の話をして、と遮る
✅保護者の良い対応:まずは子どもの興味のある話を聞く。それから、ママも○○の話をするね、と自分の話題を少しずつ入れる。子どもが他の話題にも興味を広げられるよう、ゆっくり導く
保護者のポイント
- まず受け入れる
- 少しずつ広げる
- 焦らない
【場面5】会話が全く成立しない
❌保護者の悪い対応:もう話しかけても無駄だ、と諦めて話しかけなくなる
✅保護者の良い対応:言葉での会話は難しくても、一緒に遊ぶ、絵本を見る、手遊びをするなど、言葉以外のコミュニケーションを大切にする。専門家に相談しながら、その子に合った関わり方を見つける
保護者のポイント
- 諦めない
- 言葉以外も大切にする
- 専門家に相談する
療育現場での実例
ある5歳の子どもは、ほとんど言葉を話さず、保護者が話しかけても反応がありませんでした。保護者は、この子は一生会話ができないのではないかと絶望していました。
療育施設での評価では、言葉の理解は年齢相応にあるが、表現が非常に遅れているということでした。また、処理速度が遅く、答えを考えるのに時間がかかることも分かりました。
療育施設が保護者に伝えたのは、この子は話せないのではなく、話すのに時間がかかるのだということ、そして十分に待つことの大切さでした。
保護者は、質問したら最低10秒は待つ、次の質問をしない、答えが出なくても責めない、という対応を始めました。また、質問を具体的でシンプルなものに変えました。
最初の数週間は変化がありませんでした。しかし、1ヶ月後、子どもがはじめて質問に答えたのです。給食何食べた?という質問に、カレーと答えました。
保護者は涙が出るほど嬉しかったそうです。それから、少しずつ子どもの言葉が増えていきました。一言、二言、そして短い文章。時間はかかりましたが、確実に進歩していったのです。
1年後、この子は簡単な会話ができるようになっていました。まだ流暢ではありませんが、自分の気持ちを言葉で伝えられるようになったのです。
保護者は、あの時諦めずに待ち続けて本当に良かった、この子には時間が必要だったんだと語ってくれました。
大切だったのは、子どものペースを尊重し、焦らず、待ち続けたことでした。
会話は焦らず、その子のペースで
子どもが話しかけても反応しない、会話が続かないという状況に、保護者は不安と焦りを感じます。
しかし、コミュニケーションの発達には個人差が大きく、その子なりのペースがあります。今すぐ会話ができなくても、適切な関わりを続けることで、子どもは少しずつ言葉を獲得していきます。
大切なのは、反応がなくても話しかけ続けること、子どもの小さな変化を見逃さないこと、その子のペースを尊重すること、専門家の助けを借りることです。
そして何より、会話ができるできないにかかわらず、保護者が子どもと一緒にいる時間を楽しむこと、言葉以外のコミュニケーションも大切にすることが重要なのです。
会話は、目標ではなく、親子の絆を深める手段の一つに過ぎません。会話ができなくても、親子の愛情は十分に伝わります。
保護者が焦らず、その子のペースを尊重し、小さな変化を喜びながら関わり続けることで、子どもは安心して言葉を使い始め、やがて親子の対話は少しずつ豊かになっていくでしょう。
今日も子どもの言葉の遅れに悩んでいる保護者がいると思います。その時、焦らなくていい、その子のペースでいい、小さな変化を喜ぼう、言葉以外のコミュニケーションも大切という視点を持つことで、保護者の心は少し軽くなり、子どもへの関わり方も優しくなり、親子の関係はより温かいものになっていくに違いありません。