“時間の感覚がない”〜“あと5分”がわからない子どものためにできること〜

「あと5分って言ったのに、どうしてまだ遊んでるの?」
「あと5分で終わりだよ」と伝えたのに、遊びをやめられない。
「もうすぐごはん」と声をかけても、全く動かない。
いざ片づけようとすると泣いたり怒ったりして大変になる——
そんな経験をした保護者の方も多いのではないでしょうか。
「約束したのに」「わざと無視してるの?」と思ってしまうかもしれません。
しかし実は、“時間がわからない”というのは、発達の自然な段階なのです。
子どもにとって「あと5分」や「すぐ」などの時間の表現は、
まだ“体で感じる”ことが難しい抽象的な概念です。
この記事では、子どもが“時間を理解する力”をどう育てていくのか、
そして「あと5分」が伝わるようになるための家庭での工夫を紹介します。
第1章:子どもにとって“時間”はどう見えているのか
時間は“見えないもの”
大人にとって「5分」は“時計で測れるもの”ですが、
子どもにとっては、ただの「よくわからない言葉」です。
脳の前頭前野や側頭葉が発達することで、
“過去・現在・未来”を順につなげて考える力が育っていきます。
しかし幼児期の子どもは、「今この瞬間」を中心に生きています。
そのため、
- 楽しいことは「ずっと続く」と感じる
- つまらないことは「永遠に終わらない」と感じる
- 「あとで」「もうすぐ」が実感としてわからない
という状態になります。
声かけ例
- 「あと5分」よりも、「この曲が終わったら片づけよう」
- 「もうすぐ」よりも、「次はごはんの時間にするね」と具体的に。
第2章:“時間感覚”が育つ3つのステップ
ステップ①「順番の理解」
最初に育つのは、「何が先で、何があとか」という順序の感覚です。
たとえば、「朝ごはんのあとに歯みがき」「お風呂のあとに寝る」など、
“生活の流れ”を繰り返すことで、自然と順番の理解が育っていきます。
声かけ例
- 「ごはんのあとに歯みがきしようね」
- 「絵本を読んだらおやすみしようね」
時間を数字で伝えるより、行動のつながりで伝えることがポイントです。
ステップ②「持続時間の感覚」
次に、「どれくらい続くか」の感覚が少しずつ芽生えます。
この段階では、時計よりも**“体験の長さ”**が時間の基準になります。
たとえば、
- 「1曲分」=約3分
- 「1話のアニメ」=約15分
- 「砂時計が落ちるまで」=約2分
こうした“見える時間”を繰り返し経験することで、
「5分くらい=これくらい」という感覚が育ちます。
声かけ例
- 「この曲が終わったらお片づけしよう」
- 「砂が全部落ちたら交代ね」
ステップ③「見通しと切り替え」
最終的に、子どもは“今”から“次”に切り替える力を身につけます。
でもこの切り替えには、感情の整理や注意の転換も必要です。
「楽しいことをやめる」「好きな遊びを終わらせる」のは、
子どもにとって“小さな喪失”でもあります。
声かけ例
- 「あと1回やったら終わりにしようね」
- 「終わったら次に〇〇をしよう」と“次の楽しみ”を伝える。
第3章:「あと5分」を伝える工夫
① 見える形で知らせる
子どもの脳は、“視覚的な情報”を最も理解しやすい構造をしています。
言葉だけではなく、「見える時間」を使いましょう。
おすすめツール
- カウントダウンタイマー
- 砂時計(2分/5分など)
- 時計の針を「ここまで」と示す
声かけ例
- 「針がここにきたら終わりにしようね」
- 「砂が全部落ちたらごはんだよ」
② 「予告→確認→切り替え」の3ステップ
突然「やめようね」と言われると、脳の準備ができず混乱します。
「これから終わるよ」と予告を入れることが大切です。
- 予告:「あと5分で終わるよ」
- 確認:「もうすぐ終わりの時間だね」
- 切り替え:「次はごはんの時間だよ」
声かけ例
- 「そろそろ終わりにする時間が近づいてきたね」
- 「次はごはんだから、お腹空かないように準備しよう」
③ “終わり”を肯定的に伝える
「もう終わり」「ダメ」と言われると、子どもは“奪われた”と感じます。
「終わる=次の始まり」と感じられる言葉に変えてみましょう。
声かけ例
- 「ここまでできたね、すごい!」
- 「終わったら次に〇〇をしよう」
- 「お片づけしたら、お楽しみの絵本にしよう」
第4章:時間感覚を育てる家庭の習慣
① “いつも同じ順番”を意識する
ルーティン(生活の流れ)を繰り返すことで、
子どもは自然と“時間の秩序”を体で覚えていきます。
たとえば、
- 起きる → トイレ → 朝ごはん
- 帰宅 → 手洗い → おやつ
- お風呂 → パジャマ → 絵本 → おやすみ
この順番が安定することで、「次に何が起こるか」を予測できるようになり、
結果的に時間の感覚も育ちます。
声かけ例
- 「次は何の時間だったかな?」
- 「朝ごはんのあとはいつも何をするんだっけ?」
② “時間を体で感じる”遊びを取り入れる
遊びの中で、自然に時間の感覚を育てることができます。
おすすめの遊び
- 「10秒かくれんぼ」(短い時間の感覚)
- 「お風呂で数を数える」(持続時間の感覚)
- 「音楽に合わせて動く」(リズムと順序の感覚)
声かけ例
- 「10数えたら出てくるよ!」
- 「この歌が終わったらゴールね!」
体験としての“時間”を重ねることが、理解の近道です。
③ 絵スケジュールで1日の流れを見せる
1日の活動を絵カードで見せると、
“時間の流れ”を具体的にイメージしやすくなります。
声かけ例
- 「今はここだね。次はお風呂の時間だよ」
- 「このカードが終わったらおやすみね」
「見通せる安心」が、時間を意識する力を育てます。
第5章:時間の理解が苦手な子どもの背景
① 実行機能の未発達
“やることを整理して順に進める”力(実行機能)がまだ育ちきっていないと、
時間の流れを自分で管理することが難しくなります。
声かけ例
- 「まず〇〇をしてから、次に△△をしよう」
- 「終わったら“できたカード”を貼ろうね」
② 注意の切り替えが難しい
ADHD傾向などがある場合、注意の切り替えが難しく、
“次に移る”ことに時間がかかることがあります。
この場合も、視覚的な予告と区切りの合図が有効です。
声かけ例
- 「ピピッと鳴ったらおしまいね」
- 「この線まで積んだら終わりにしよう」
③ 感覚処理のズレ
感覚過敏や鈍麻があると、環境からの刺激を整理するのに時間がかかり、
結果的に“時間がずれる”ように見えることもあります。
声かけ例
- 「静かなところで片づけしようか」
- 「音が鳴ったら動くよ」
第6章:相談を検討するサイン
次のような状態が続く場合は、
専門機関での発達相談を検討してもよいでしょう。
- 時間の切り替えで強いパニックが起こる
- 日常生活全般で“終わり”を受け入れられない
- 予定変更に極端な不安を示す
- 時間だけでなく「順番」「待つこと」にも苦手さがある
発達支援センターや療育センターでは、
時間理解・実行機能・情動調整の発達を踏まえた支援を行っています。
最後に:“あと5分”は、育つ途中の力
「あと5分だよ」が通じないのは、わがままではなく、
“時間を感じる力”がまだ育っていないだけ。
子どもは、“今”の中で一生懸命生きています。
時間感覚は、経験を通して少しずつ育つものです。
- 数字ではなく“体験”で時間を伝える
- 予告・確認・切り替えの3ステップを意識する
- 終わりのあとに“次の楽しみ”を用意する
「あと5分」が通じるようになる日を焦らず待ち、
今の“時間を忘れるほど夢中な姿”を、あたたかく見守っていきましょう。
時間を理解する力は、“生きるリズム”の土台。
親子で少しずつ整えていくことが、子どもの安心と自立につながります。