“うまく甘えられない”〜「抱っこして」「見てて」が言えない子の心の内側〜

「甘えない子」「我慢する子」ほど、心はSOSを出している
「この子は手がかからないね」「全然泣かないし、しっかりしてる」
そんな言葉を聞いて、うれしい反面、どこか心配になったことはありませんか?
いつも静かにがんばっているけれど、寂しそうに見える。
甘えたいはずなのに「大丈夫」と言ってしまう。
弟や妹が生まれても我慢してばかり——。
実は、「甘えられない子」は、“甘えたくない”のではなく、
「甘え方がわからない」子どもたちなのです。
この記事では、うまく甘えられない子どもの心の内側を、
愛着形成・情動発達の視点からわかりやすく解説し、
保護者ができる“安心して甘えられる関係づくり”の方法を紹介します。
第1章:「甘えること」は自立の出発点
「甘え」は“依存”ではなく“信頼”
「甘え」という言葉は、ときにネガティブに捉えられがちです。
でも心理学では、甘えは“信頼の表現”であり、心の栄養とされています。
赤ちゃんが泣いて抱かれるように、
子どもは安心できる人との関わりの中で「守られている」という感覚を育てます。
この「安心の土台」が、自立の基盤になるのです。
つまり、よく甘える子ほど、のちにしっかり自立できるというのが発達心理学の基本です。
声かけ例
- 「抱っこしたいときは言ってね」
- 「ママはいつでもここにいるよ」
“安心して甘えられる関係”が育てるもの
愛着理論(Bowlby, 1988)によると、
子どもが「この人はいつも自分を助けてくれる」と確信できると、
世界への探索意欲が高まり、行動の幅が広がります。
つまり、甘えが満たされると、子どもは外の世界に出ていく勇気を持てるのです。
第2章:「甘えられない子」の心の中で起きていること
① 甘えても受け止めてもらえなかった経験
幼い頃、泣いたり抱っこを求めたりしたときに、
「もうお兄ちゃんでしょ」「泣かないの」などと抑えられてしまうと、
子どもは「甘える=迷惑をかけること」と学んでしまいます。
そうすると、「抱っこして」と言えなくなり、
“我慢することがいいこと”だと自分に言い聞かせるようになります。
声かけ例
- 「泣いてもいいんだよ」
- 「がまんしてたんだね。気づかなくてごめんね」
② 「いい子」でいようとするプレッシャー
大人の期待に応えようとするタイプの子は、
“がんばり”が習慣になり、自分の気持ちを後回しにしてしまいます。
周りの大人が「助かる」「えらいね」と言ってくれることで、
“いい子でいること”が安心の条件になっていきます。
声かけ例
- 「無理してがんばらなくていいよ」
- 「できなくても、〇〇ちゃんのことは大好きだよ」
③ 「甘える」と「怒られる」を混同している
過去に甘えたときに怒られたり拒否された経験があると、
子どもは「甘えると嫌われる」と誤解してしまいます。
このとき、心の中では“甘えたい”と“怖い”が同時に存在しており、
結果として“何も言わない”という選択をします。
声かけ例
- 「ママは怒ってないよ」
- 「抱っこしてもいい?」と、こちらから優しく手を差し伸べる。
第3章:甘え下手な子どもに見られるサイン
サイン1:失敗を極端に嫌がる
「もうやらない」「どうせできない」と諦めやすい。
これは、“失敗しても大丈夫”という経験が少ないことの表れです。
声かけ例
- 「うまくいかなくても、がんばってたこと知ってるよ」
- 「ママは結果よりも、やってみようとしたことがうれしい」
サイン2:助けを求められない
困っていても「大丈夫」と言ってしまう。
この子たちは、助けを求める=迷惑をかけることだと思い込んでいます。
声かけ例
- 「困ったときは“助けて”って言っていいんだよ」
- 「ママは〇〇を手伝えるよ。一緒に考えよう」
サイン3:他人の顔色をよく見る
大人が怒っていないか、がっかりしていないかを常に気にする。
これは、“安心の基準が他人にある”状態です。
声かけ例
- 「ママは怒ってないよ。〇〇ちゃんの気持ちを知りたかっただけ」
- 「どう思った?って、あなたの気持ちを聞きたいんだよ」
第4章:家庭でできる“甘え直し”のサポート
① 「小さな甘え」をキャッチする
「抱っこして」と言わなくても、
子どもは視線を合わせてきたり、近くに寄ってきたりしています。
その“さりげない甘えサイン”を見逃さず、
言葉にして返してあげましょう。
声かけ例
- 「そばに来たかったんだね」
- 「抱っこしたい気分かな?」
小さなサインを受け止めることで、
子どもは「甘えてもいいんだ」と感じるようになります。
② 「安心のルーティン」をつくる
決まった時間にスキンシップをとる習慣があると、
子どもは“安心の見通し”を持てます。
例
- 朝のハグ、おやすみのギュッ、寝る前の手つなぎ
- 帰宅時に「今日もがんばったね」と頭をなでる
声かけ例
- 「この時間がママは一番好き」
- 「今日も〇〇ちゃんの笑顔が見れてうれしい」
繰り返しの安心が、心の安全基地を強くします。
③ 「助けて」を練習できる関わり
「手伝って」「抱っこして」と言葉で伝える練習を、
遊びや会話の中で自然に取り入れましょう。
声かけ例
- 「ママ、助けてって言ってごらん」
- 「“ぎゅってして”って言えたらうれしいな」
言葉で甘えられるようになると、
感情を抑え込まずに表現できるようになります。
④ “失敗しても受け止められる経験”を増やす
甘えられない子は、完璧であろうとする傾向があります。
「間違えても大丈夫」「怒られない」と実感できる場面をつくりましょう。
声かけ例
- 「失敗しても、チャレンジしてくれたのがうれしい」
- 「ママはずっと味方だよ」
第5章:甘えの“形”は子どもによって違う
表現タイプ①:静かに寄り添うタイプ
→ 自分から言葉にしないけれど、近くにいるだけで安心するタイプ。
対応のヒント
- 無理に話しかけず、“一緒にいる時間”を共有する。
- 「隣に座っていい?」など、安心の距離を保つ。
表現タイプ②:ふざけて甘えるタイプ
→ 本当は抱っこしてほしいのに、わざとふざけて注目を引くタイプ。
対応のヒント
- 叱らずに「甘えたい気持ちを出してくれてありがとう」と受け止める。
- 「ギュッてしようか?」「一緒に笑おうか?」と提案する。
表現タイプ③:怒って距離を取るタイプ
→ 甘えたいのに拒否されるのが怖くて、
「もういい!」と怒りで気持ちを守るタイプ。
対応のヒント
- 「怒ってもいいよ」「ママはここにいるよ」と安心を言葉で伝える。
- 落ち着いたあとに「さっき、寂しかったのかな?」と振り返る。
第6章:相談を検討してもよいサイン
次のような状態が続く場合は、専門機関への相談を検討してみましょう。
- 強い我慢や緊張が見られる(常に周囲に気を使う)
- 感情表現が乏しく、泣く・笑うが少ない
- 人との関わりを避ける・親に触れられるのを嫌がる
- 小さな変化でも強い不安や混乱を示す
発達支援センターや心理相談機関では、
愛着形成・情動調整・社会性発達を踏まえた支援を受けることができます。
最後に:“甘える力”は、“自分を信じる力”
甘えることは、弱さではなく、自分の気持ちを信じて表現できる力です。
そして、それを受け止めてもらえた経験が、
「自分は大丈夫」「人を信じていい」という自信を育てます。
- 甘えるサインを見逃さない
- 「抱っこして」と言えたらしっかり応える
- 我慢していたら「がんばってたね」と声をかける
それだけで、子どもの心には“安心の根っこ”が広がります。
「うまく甘えられない子」は、実は「甘えたい子」。
その気持ちを受け止めてくれる大人がいるだけで、
少しずつ、素直に「甘えてもいい」と思えるようになります。
そして、その安心がやがて“自立へのエネルギー”へと変わっていくのです。