“ごっこ遊びが苦手”〜社会性の芽を育てる遊びの工夫〜

ごっこ遊びに入れない子どもを前にして
「お友だちがままごとをしているのに、一人で積み木をしている」
「“一緒にやろう”と声をかけられても、どう入っていいか分からず立ち尽くす」
「ごっこ遊びを始めても、すぐにルールが分からなくなってやめてしまう」
園や家庭で見られるこうした姿に、保護者は「うちの子、社会性に問題があるのでは?」と心配になることがあります。
しかし、ごっこ遊びに入れないからといって「社会性がない」と決めつける必要はありません。ごっこ遊びは高度な認知・言語・感情のスキルが必要であり、誰もがすぐにできるものではないのです。
この記事では、ごっこ遊びが苦手な子どもの背景と、ごっこ遊びを通して社会性を育てる家庭での工夫について詳しく解説します。
第1章:ごっこ遊びとは何か?
ごっこ遊びの定義
ごっこ遊びは「見立て遊び」や「役割遊び」とも呼ばれ、物や人に別の意味を与えながら遊ぶ活動です。
例:
- 積み木を「ごはん」に見立てて遊ぶ
- 子ども同士で「お母さん役」「赤ちゃん役」を分担する
ごっこ遊びに必要な力
- 想像力(見立てる力)
- 言語力(役割をやりとりする力)
- 社会性(相手の視点に立つ力)
- 自己抑制(ルールに従う力)
つまり、ごっこ遊びは「小さな社会」を体験する場であり、自然に社会性を育む大切な遊びです。
第2章:なぜごっこ遊びが苦手なのか?
① 言葉のやりとりが難しい
役割を理解したり、セリフを考えたりするには言語力が必要です。言葉の発達がゆっくりな子は、ごっこ遊びに入りづらくなります。
② 想像することが苦手
「これがごはんだよ」と見立てる力がまだ育っていないと、ごっこ遊び自体が理解できません。
③ ルールを守るのが難しい
「あなたは赤ちゃん役ね」と言われても、役割を守ることに抵抗があり、自由に遊びたくなってしまう子もいます。
④ 発達特性が関係することも
ASDの子は「見立て」や「役割理解」が難しいことが多く、ADHDの子は「ルールを守る」部分でつまずきやすいです。
第3章:ごっこ遊びは社会性のトレーニング
ごっこ遊びには「他者理解」「役割分担」「感情のやりとり」が含まれており、まさに社会性を育てる練習場です。
ごっこ遊びが苦手だからこそ、少しずつ関わりを広げていけるよう支援していくことが大切です。
第4章:家庭でできるごっこ遊びの工夫
① 一対一から始める
いきなり集団に入るのは難しいので、まずは親子でのごっこ遊びから始めましょう。
声かけ例
- 「ママはお客さん役ね。○○ちゃんはお店屋さんね」
- 「ハンカチをケーキに見立ててみようか」
② 簡単な役割から取り入れる
「お店屋さん」「お客さん」など、分かりやすく短いやりとりで完結するごっこ遊びがおすすめです。
声かけ例
- 「いらっしゃいませ!」「ジュースください!」
- 「はいどうぞ。100円です」
③ 道具を活用する
ままごとセットやぬいぐるみなど、目に見えるアイテムがあるとイメージしやすくなります。
声かけ例
- 「このスプーンはアイスクリームのスプーンにしよう」
- 「ぬいぐるみを患者さんにして診察してみよう」
④ 子どものペースに合わせる
無理に役をやらせるのではなく、「見ているだけ」でも参加の第一歩です。
声かけ例
- 「ママがやってみるから、見ててね」
- 「見てるだけでも楽しいよ」
⑤ 少しずつルールを共有する
「交代で役をする」「決まったセリフを言う」など、簡単なルールから取り入れましょう。
声かけ例
- 「次はママが店員さん、○○ちゃんがお客さんね」
- 「“ありがとうございました”って言ってみよう」
第5章:園や学校との連携
ごっこ遊びは集団活動の中でよく取り入れられるため、園や学校との連携が重要です。
先生に伝えておきたいこと
- ごっこ遊びに入るのが苦手であること
- 少人数や一対一での関わりだと参加しやすいこと
- 道具や見える工夫があると理解しやすいこと
第6章:ごっこ遊び以外の社会性の育て方
ごっこ遊びが苦手でも、他の遊びを通して社会性を育てることができます。
- 協力してブロックを作る
- 順番を交代しながら遊ぶ
- 簡単なカードゲームでルールを守る
社会性の芽は、ごっこ遊び以外にもたくさんの場面で育つのです。
第7章:相談を検討するサイン
- ごっこ遊び以外の遊びにもほとんど参加できない
- 言葉や想像の力が極端に育っていない
- 集団活動に不安や拒否感が強い
こうした場合は、発達相談や療育センターでの支援を検討すると安心です。
最後に:ごっこ遊びは「社会への入り口」
「ごっこ遊びが苦手」という姿は、まだ社会性のスキルが十分に育っていないというサインです。
- 一対一から始める
- 簡単な役割から取り入れる
- 道具を活用する
- 見ているだけの参加も認める
- 少しずつルールを共有する
このようにステップを踏みながら関わっていくことで、子どもは「ごっこ遊びが楽しい」と感じられるようになります。
ごっこ遊びは、子どもが社会を体験する小さな入り口です。苦手でも構いません。少しずつ経験を重ねることで、やがて自分なりの方法で人との関わりを楽しめるようになります。