“言葉が多いのに伝わらない”〜一方的なおしゃべりとコミュニケーションのズレ〜

「よくしゃべるのに会話にならない」子どもたち
「ずっと話しているのに、内容がかみ合わない」
「自分の好きなことばかり話して、相手の話を聞かない」
「質問に答えずに、別の話題を始めてしまう」
保護者から「うちの子はとにかくおしゃべり。でも会話にならないんです」という声をよく耳にします。
言葉数は多いのに「伝わらない」「かみ合わない」ことで、家庭や園で困る場面も少なくありません。
これは「言葉が育っていない」のではなく、コミュニケーションのスキルにアンバランスがある ことが多いのです。この記事では、「言葉が多いのに伝わらない」背景と、家庭でできる具体的な関わり方について解説します。
第1章:なぜ「言葉が多いのに伝わらない」のか?
言葉の「量」と「質」は別物
言葉をたくさん話すことと、相手に伝わることは別の力です。前者は「語彙の豊かさ」、後者は「会話の調整力」に関わります。
一方的になりやすい背景
- 相手の気持ちを推測する力(視点取得)がまだ育っていない
- 自分の興味のあることを優先してしまう
- 質問や応答のルールを理解していない
発達特性との関係
ASDの子は「会話のキャッチボール」が苦手になりやすく、ADHDの子は衝動的に思いついたことを話してしまう傾向があります。
第2章:「伝わらない」ことで起きる困りごと
- 園や学校で「話を聞いていない」と誤解される
- 友達との会話でトラブルが起きやすい
- 家族も「聞いているのに疲れてしまう」
本人に悪気はないのに、周囲とずれが生じやすいのが特徴です。
第3章:家庭でできる関わり方
① 相手の気持ちに注目させる
話す前に「相手がどう思うかな?」を意識できるよう促します。
声かけ例
- 「ママは今、ごはんを作ってるよ。話は後でにできる?」
- 「そのお話、○○ちゃんはどう思うかな?」
② 会話のルールを視覚化する
「質問したら相手の答えを聞く」「交代で話す」などをカードやイラストで示すと分かりやすいです。
声かけ例
- 「質問のカードを出したら、答えを聞こうね」
- 「次はママが話す番だよ」
③ 興味のある話題を共有する
一方的に話すのではなく、相手と共有する形にすると会話がつながります。
声かけ例
- 「恐竜のこと教えてくれる?ママはトリケラトプスが気になるな」
- 「○○くんは恐竜のどこが好きなの?」
④ 具体的な応答の練習をする
日常のやりとりで「聞かれたら答える」を繰り返す練習が役立ちます。
声かけ例
- 「今日は誰と遊んだの?」→「○○ちゃん」
- 「何を食べたの?」→「カレー!」
⑤ 褒めるときは「伝わった」ことを評価する
「たくさん話せた」ではなく「相手に伝わった」ことを強調して褒めましょう。
声かけ例
- 「ママに分かるように教えてくれてありがとう」
- 「お友だちも分かってくれてうれしそうだったね」
第4章:日常生活での工夫
食卓での会話
「一人が話したら次の人に順番を回す」というルールをつくると、会話のキャッチボールを体験できます。
声かけ例
- 「次はパパに質問してみよう」
- 「お話が終わったら“どう思う?”って聞いてみよう」
絵本や物語を使う
登場人物の気持ちを想像する練習になります。
声かけ例
- 「このキャラクターはどんな気持ちかな?」
- 「もし○○ちゃんだったらどうする?」
ゲームを活用する
しりとりや質問ゲームは、会話のやりとりを練習するのにぴったりです。
声かけ例
- 「ママに質問して、そのあとママが質問するね」
- 「交代で一つずつ話そう」
第5章:園や学校との連携
先生に「一方的に話してしまいやすいが、興味を共有するとやりとりがしやすい」などを伝えておくと、理解が深まります。
- 話す順番を意識させてもらう
- 相手の反応に気づけるよう声かけしてもらう
- 興味のある話題をきっかけにしてもらう
第6章:相談を検討するサイン
- 会話が一方的で友達との関係が築けない
- 相手の話をほとんど聞けない
- 社会生活に強い影響が出ている
このような場合は、発達相談や言語聴覚士による支援を検討すると安心です。
最後に:言葉は「伝わってこそ」意味を持つ
「言葉が多いのに伝わらない」という姿は、子どもがまだコミュニケーションのルールを身につけていないというサインです。
- 相手の気持ちを意識させる
- 会話のルールを視覚化する
- 興味のある話題を共有する
- 応答の練習を繰り返す
- 「伝わったこと」を褒める
こうした関わりを積み重ねることで、子どもは少しずつ「言葉を相手とつなげる楽しさ」を学んでいきます。
よくしゃべることは大きな力です。その力を「相手に届く言葉」へと育てるために、家庭でできる工夫を重ねていきましょう。