“ごはんに集中できない…”——食卓で見える“姿勢・感覚・心”の発達

「座っていられない」「すぐ立ち歩く」…食事の時間がつらい
「じっと座って食べられない」
「すぐに立ってしまう」
「こぼす、遊ぶ、全然食べない」
そんな子どもの食事時間に、毎日くたびれてしまう保護者の方も多いのではないでしょうか。
「落ち着きがない」「わがまま」と感じてしまうこともありますが、実はその背景には、姿勢・感覚・心の発達のバランスが関係しています。
食事中に立ち歩いたり、集中できなかったりするのは、“やる気がない”からではなく、“体と脳ががんばりすぎている”サインかもしれません。
この記事では、子どもの「食事に集中できない」行動を、姿勢・感覚・情動の3つの側面からやさしく解説し、今日からできるサポートの工夫や声かけ例を紹介します。
第1章:「座る」ことは実はとても難しい
“座る”には全身の協調が必要
「座る」という行動は、大人が思う以上に多くの能力を使っています。
体を支える筋力(体幹)、バランスを取る前庭感覚、手を使う微細運動の安定、そして注意を持続させる集中力。
これらが同時に働いてはじめて、「座って」「食べる」が成り立ちます。
体の支えが不安定だと、子どもは無意識に立ち上がってバランスを取ろうとします。つまり「立ってしまう=落ち着かない」ではなく、**“体を安定させるための動き”**であることが多いのです。
声かけ例
- 「イスに座ろう」ではなく、「足をぺったんしてみよう」
- 「背中をピン!」ではなく、「背中を壁にトントンしようか」
体の感覚を言葉で意識させることで、“座る姿勢”を具体的に理解しやすくなります。
第2章:感覚の発達が「食べる姿勢」に影響する
① 前庭感覚(バランス)の未熟さ
前庭感覚とは、体の傾きや動きを感じ取る“平衡感覚”のことです。
この感覚がまだ発達途中だと、安定して座ることが難しく、常に“揺れていないと安心できない”状態になります。
対応の工夫
- 足がしっかり床につくイスを使う
- クッションで骨盤を支える
- 背もたれを少し斜めにして、体を預けられるようにする
声かけ例
- 「足をぺたっとつけると、体が落ち着くね」
- 「グラグラしないイスに座ると食べやすいね」
② 固有感覚(体の位置を感じる力)の影響
スプーンを使う、コップを持つなどの動作には、“どのくらいの力で持つか”という感覚(固有感覚)が必要です。
この感覚が鈍いと、強く握りすぎたり、逆に落としてしまったりします。
対応の工夫
- スプーンの持ち手を太くして握りやすくする
- 手に力が入りすぎる子には、ゴム付きのグリップを使う
声かけ例
- 「やさしくトントンできるかな?」
- 「スプーンさんに“おやすみ”の力で持ってみよう」
③ 感覚過敏(食べ物の触感・音・におい)
感覚が鋭い子は、食べ物の“ベタベタ”“ザラザラ”“ヌルヌル”といった感触に強い不快感を持ちます。
また、口の中の感覚(口腔感覚)も過敏な場合、“噛む”“飲み込む”動作自体がストレスになります。
対応の工夫
- スプーンや箸を本人が選ぶ
- 食べ慣れた食材から少しずつ変化させる
- 音やにおいの刺激を減らす(静かな環境で食べる)
声かけ例
- 「今日は新しい食感にチャレンジしてみようね」
- 「苦手なときは“ストップ”って言ってもいいよ」
第3章:集中できないのは“注意の切り替え”が難しいから
食事中の「ながら刺激」が多すぎる
テレビ・おもちゃ・人の話し声…。
子どもの脳は、複数の刺激を同時に処理するのが苦手です。
「食べる」という行為に集中するためには、視覚・聴覚・体感覚の情報を整理する力が必要ですが、この力はまだ発達途中です。
環境の工夫
- 食卓からテレビやおもちゃを遠ざける
- 食器やお皿の色をシンプルにする
- 食べるものを一度に出しすぎない
声かけ例
- 「お皿の中を見て食べようね」
- 「スプーンさんが“今は食べる時間だよ”って言ってるね」
注意の持続が難しいときは、“短い集中”を積み重ねる
最初から最後まで集中して食べるのは難しいものです。
「5分間だけがんばる」「一皿だけ食べる」といった“小さな目標設定”が効果的です。
声かけ例
- 「このおかずが終わったらお水を飲もう」
- 「一口食べたらママとハイタッチ!」
“できた!”の積み重ねが、集中の持続を育てます。
第4章:心の状態が「食べ方」にあらわれる
食事=安心の時間であること
食事中に立ち歩く・遊ぶ子どもの中には、“心が落ち着かない”状態の子もいます。
園や家庭での出来事、疲れ、緊張、不安——それらが蓄積していると、座って食べること自体が苦痛になります。
声かけ例
- 「今日はたくさんがんばったね」
- 「ゆっくり食べようね。ママはそばにいるよ」
「食べなさい」よりも「安心して食べようね」。
食卓を“安心の場”に変えるだけで、食事の質が大きく変わります。
「食べない=反抗」ではない
子どもがスプーンを投げたり、食べ物を拒否したりするのは、“食べたくない”ではなく、“今は受け入れる余裕がない”こともあります。
声かけ例
- 「今はイヤな気持ちなんだね」
- 「ちょっとお休みしてから食べようか」
拒否の裏には、必ず理由があります。
「ダメ!」で終わらせず、気持ちに目を向けることが大切です。
第5章:家庭でできる“食事の発達支援”
① “座りやすい環境”を整える
- 足が床に届くイス
- 背もたれで体を支えられる
- テーブルと体の間に余裕を持たせる
この3つが整うだけで、「姿勢の不安定さ」が減り、集中力が大幅に変わります。
声かけ例
- 「足がつくと食べやすいね!」
- 「イスがちょうどいいね、背中が気持ちいいでしょ」
② “楽しい食事”を演出する
食べることが“義務”にならないよう、楽しい要素を取り入れましょう。
- 家族で「おいしいね!」を共有
- お皿や箸を自分で選ぶ
- 食べられたらスタンプなどの視覚的ごほうび
声かけ例
- 「このお皿、〇〇ちゃんが選んだね!」
- 「今日は“にこにこ食べ”できたね!」
③ “小さな成功”を積み重ねる
1回全部食べるよりも、“昨日より少しできた”をほめることが、やる気を引き出します。
声かけ例
- 「昨日よりたくさん座って食べられたね」
- 「一口目がとっても上手だったよ」
第6章:相談を検討してもいいサイン
次のような様子が見られる場合は、専門機関への相談をおすすめします。
- 姿勢を保つのが極端に難しい(常に動く・体が傾く)
- 食べ物の触感・におい・音への強い拒否反応
- 噛む・飲み込む動作に時間がかかる、むせる
- 食事が強いストレスになっている
発達支援センターや療育機関では、姿勢・感覚・摂食機能を評価し、その子に合った方法を提案してくれます。
最後に:“食べる”は、心と体の発達の鏡
食事は、栄養をとるだけでなく、**「自分の体を感じ、家族とつながる時間」**です。
立ち歩く、こぼす、集中できない——それは“問題行動”ではなく、“発達のメッセージ”。
- 姿勢を支える工夫をする
- 感覚に合わせた環境をつくる
- 「食べる=安心できる時間」にする
この3つを意識するだけで、食卓は「できない場所」から「育ちが見える場所」に変わります。
今日も、子どもの“食べる力”は少しずつ育っています。
焦らず、比べず、一緒に“おいしいね”を積み重ねていきましょう。