“急にテンションが上がる”——興奮スイッチとブレーキの発達

「突然ハイテンション!」「止まらない!」——その裏にある脳のしくみ
「静かに遊んでいたのに、突然走り出す」
「楽しくなりすぎて止まらない」
「注意しても笑ってごまかす」
そんな“急にテンションが上がる”姿に、どう対応していいかわからず困ることはありませんか?
実は、これらの行動は“わざと”でも“聞いていない”わけでもなく、
脳の興奮スイッチとブレーキの発達バランスによるものです。
子どもはまだ、自分の感情や行動をうまくコントロールする力(自己調整力)が育っていません。
興奮しやすく、ブレーキがかかりにくいのは、成長途中の脳の自然な姿なのです。
この記事では、「急にハイテンションになる」「止まらない」子どもたちの行動を、
神経発達と感情調整の観点からわかりやすく解説し、
家庭でできる“ブレーキを育てる関わり”と“安心して落ち着ける工夫”を紹介します。
第1章:子どもの“興奮スイッチ”とは?
興奮スイッチ=快の刺激に反応する脳の回路
楽しいこと、驚いたこと、刺激の強いこと——
子どもの脳はそれらを「もっとやりたい!」と感じるようにできています。
脳内ではドーパミンという神経伝達物質が分泌され、
ワクワクや快感を引き起こします。
この“快の回路”が働くと、体も心も一気に活発になります。
しかし幼児期は、まだブレーキをかける前頭前野の働きが未成熟なため、
アクセルだけが全開になることがよくあります。
声かけ例
- 「楽しいね!でもちょっと休けいしよう」
- 「笑いすぎて頭がグルグルしてきたね。深呼吸してみようか」
楽しさを否定せず、“切り替えるきっかけ”を言葉で伝えるのがポイントです。
興奮スイッチが入りやすい場面
- 音や光などの刺激が強いとき(イベント・外食・テレビ)
- 人が多い・注目される場面
- 新しいおもちゃや体験をしたとき
- 疲れ・空腹・睡眠不足などで心身が不安定なとき
つまり、「嬉しい」「不安」「疲れた」といった感情の高ぶりが、
“テンションが上がる行動”として現れているのです。
第2章:“ブレーキ”はどのように育つのか
ブレーキをかける脳の働き
脳の前頭前野には「やめる」「待つ」「落ち着く」などの制御機能があります。
しかしこの部分は、生まれてすぐに働くわけではなく、
10歳頃まで発達を続ける“後伸びの脳”です。
そのため、3〜5歳くらいの子どもが“ブレーキをかけられない”のは当然のこと。
それを責めるのではなく、少しずつ練習することが大切です。
声かけ例
- 「止まれゲームしよう!」(遊びの中でブレーキ練習)
- 「1・2・3でストップ!」(身体を使って切り替えの練習)
“待つ力”の前に、“切り替える力”
「待つ」には、感情を切り替える力が必要です。
つまり、ブレーキ=我慢ではなく、“楽しい→落ち着く”の切り替え力なのです。
家庭での工夫
- 遊びを切り上げるときは「あと3回でおしまい」など予告する
- 切り替え後に安心できる活動(絵本・抱っこ・深呼吸)を準備しておく
声かけ例
- 「あと1回で終わりにしようね。そのあと絵本読もう」
- 「今はテンションMAXだね。落ち着く場所に行こうか」
第3章:“急にテンションが上がる”行動の背景
① 感覚刺激への敏感さ(感覚過敏・感覚探求)
光・音・匂い・触覚などに敏感な子どもは、刺激を受け取るたびに興奮します。
また逆に、刺激を求めるタイプの子どもは、体を動かしたり大声を出したりして、
自分で感覚刺激を作り出そうとします。
対応のヒント
- 照明を落とす・音量を下げる・静かな空間をつくる
- 感覚を満たす「揺れ」「重み」「深呼吸」を取り入れる
声かけ例
- 「お部屋を少し静かにして、体をゆらゆらしよう」
- 「ぎゅっと抱っこして、力をぬこうね」
② 情報処理の難しさ
たくさんの刺激を一度に処理するのが難しい子どもは、
混乱や不安が高まると、興奮で表現することがあります。
対応のヒント
- 一度に伝える情報を減らす(「〜してから〜して」ではなく1つずつ)
- ジェスチャーや絵カードを使って視覚的に示す
声かけ例
- 「まずおもちゃを片づけてから、次に絵本ね」
- 「順番カード見てみよう」
③ 不安や緊張の裏返し
実は“テンションが高い”行動は、緊張を隠すための反応でもあります。
人前でふざける、笑いすぎる、急に大きな声を出す——
これは「怖い」「どうしていいかわからない」という心の防衛反応なのです。
声かけ例
- 「ちょっとドキドキしてるのかな」
- 「楽しいけど、びっくりもしてるね」
感情を代弁してあげると、子どもは落ち着きを取り戻しやすくなります。
第4章:家庭でできる“ブレーキの育て方”
① 体を使った「ストップ遊び」
遊びの中で“止まる”経験を増やすと、自然に抑制力が育ちます。
おすすめ遊び
- 「だるまさんがころんだ」
- 「赤・青ゲーム」(赤でストップ、青で動く)
- 「ストップミュージック」(音が止まったら静止)
声かけ例
- 「ピタッと止まれたね!かっこいい!」
- 「ブレーキがうまくかかったね!」
② 深呼吸・スローダウンの習慣
呼吸は、興奮と落ち着きを切り替えるスイッチです。
深呼吸を「落ち着く儀式」として習慣化しましょう。
声かけ例
- 「風船をふくらませるようにフゥ〜って息を出そう」
- 「一緒に3回だけ深呼吸してみようか」
③ 感情カードや表情を使う
「うれしい」「びっくり」「いらいら」などの感情をカードで見せると、
自分の状態を“外から見る”練習になります。
声かけ例
- 「今の気持ちカード、どれに近いかな?」
- 「テンションMAXは“わくわくカード”かな?」
④ 落ち着ける“安全基地”をつくる
テンションが上がりすぎたとき、静かにできる“避難場所”を決めておきましょう。
ソファの角、布団の中、クッションのテントなど、
安心できる“おこもりスペース”が効果的です。
声かけ例
- 「ちょっとクッションの部屋で休けいしようか」
- 「ここは落ち着く場所だよ。いつでも来ていいからね」
第5章:園や学校でのトラブルを減らす視点
「テンションが高い=迷惑」ではなく、「調整中」ととらえる
大人が“うるさい”“ふざけてる”と受け止めると、子どもは「怒られた」と感じてしまいます。
でも実際は、“興奮してブレーキが間に合っていないだけ”のことが多いのです。
先生や周囲に、「切り替えが苦手な特性がある」ことを共有し、
叱るより、落ち着ける方法を一緒に探す方向で関わりましょう。
声かけ例(園での連携時)
- 「楽しくなりすぎたときは、〇〇コーナーに誘ってもらえると助かります」
- 「落ち着く合図(深呼吸など)を一緒に練習しています」
第6章:相談を検討してもいいサイン
次のような様子が長く続く場合は、発達支援センターや療育機関への相談を検討しましょう。
- 興奮するとパニックになり手が出る・物を投げる
- 切り替えに30分以上かかる
- 興奮後に強い疲労・頭痛・情緒不安がある
- 刺激に対する過敏さ・感覚探求が極端に強い
専門機関では、興奮・抑制のバランスや感覚処理の特徴を丁寧に見立ててくれます。
最後に:“止まらない子”は、“感じる力”が豊かな子
テンションが上がりやすい子は、周りの刺激や気持ちを敏感に受け取れる子です。
それは“困った特性”ではなく、世界を豊かに感じる力でもあります。
ただ、その豊かさを安心して使えるようにするには、
「興奮しても大丈夫」「落ち着ける場所がある」という体験が必要です。
- 楽しさを否定せず、“休けい”を提案する
- ストップ遊びや深呼吸でブレーキ練習をする
- 落ち着ける場所を一緒に決めておく
これらの積み重ねが、子どもの“自己調整力”をゆっくり育てていきます。
「止まらない」時間の中にも、確実に成長の芽はあります。
その芽を、叱るのではなく“整える関わり”で支えていくことが、
落ち着きのある未来につながる第一歩です。